嫌な奴に調子を合わせない

木村 こういう嫌な同僚がいたときに,どうやって自分のモチベーションを高めるか,少なくとも今のモチベーションを維持できるのか。ここが問題ですね。大黒さんは,汗をかかない奴とどうしても仕事をする時は,どうするのですか? 40歳を越えて,人との接し方が変わってきたのでしょうか?

大黒 コンサルタントならば,食いっぱぐれるのを覚悟して請け負わなければ済むのですけど,サラリーマンとなるとそうもいかない。そんな時は,自分の“目線”を変える努力で乗り切っていました。

勝力 コンサルタントとして「請け負わない」というのは「逃げ」だったりするのですが(笑)。それはさておき,目線を変えるとはどういうことですか? それ以前に「目線」とは何を意味しているのですか?

大黒 どんな仕事でも,行動するには何かしらの目的がありますよね。人それぞれいろいろあると思います。自分が仕事を始める時は,指示なり,依頼などがきっかけとなって,よし,この仕事を頑張ろうという気持ちになります。その上で,この上司なら,このメンバーならと,さらに気持ちが高揚してゆくのですが,この気持ちを高揚させる目的を「目線」と言っている訳です。言い換えれば「目線」とは,自分が行動する理由そのものなのです。

木村 なるほど,行動理由ですか。では,その「目線を変える」とはどういうことでしょう。

大黒 「目線」は自分の内面から生まれるので,逆に感情にも影響されやすい。なので,私の場合,汗をかかない輩と一緒に仕事をする場合,汗をかかない人間のことばかり気になって,ちっとも仕事が面白くない。ポジティブで,やる気満々だった気持ちが,一瞬に萎えてしまったこともあります。

木崎 そんな場合は,確かにきつそうですね。

大黒 とは言っても,やはり,仕事はしなければなりません。ネガティブマインドのままでも仕方がないので,別のところに行動理由を探しに行くのです。つまり,嫌な奴を見て、自分まで嫌な気持ちになるくらいなら,もっと自分が頑張れる目的を探そうと考えるのです。プロジェクトリーダーが嫌でも,ユーザーが困っているのなら,彼のために頑張ろうとか,自らの意思で意識を転換するのです。

勝力 言うなれば,自らの手で「目線を変えて」,モチベーションをもう一度高めましょう,ということですね。私もよく同じように考えています。

大黒 無論,自由奔放に行動したのでは,ただの我がままにしかなりません。明確な理由や,筋が通った行動が前提です。そのためには行動理由が,(1)会社の方針に合致していること(2)会社としてメリットがあること,または利益になること――の2点を満たしていることが必要です。

木村 ただ単に,モチベーションを高めるのではなく,会社のベクトルとシンクロしていることが重要なんですね。

大黒 そうです。与えられた目的ではなく,自らの意思で作り上げた目的なので,自分に甘えがあると,会社のベクトルとまったく違った方向に行動が行きかねないんです。

木崎 たとえ,ベクトルが合ったとしても,周りからのバッシングにさらされる危険性はあると思います。その点はどうでしょう。

大黒 おっしゃるように,シンクロしているだけでは,誰に,いつ,寝首をかかれるかも知れませんから,同時に自分の理解者を増やしておく必要もあります。自分は会社のため,組織のために,縁の下で頑張っていることを,理解,共感,共鳴し,応援してくれる上司は,ぜひとも作っておきたいです。

勝力 シンクロに,シンパシーですか。でも,上司が嫌いなことを前提としていますから,上司は応援者にはなりませんよね。

大黒 狙うは上司の上司です。それが駄目なら,隣の部門の上司も狙い目ですね。最悪,組織の序列を飛び越してでも,なんとかして影響力のある組織の長を良き理解者にしておくことです。

木村 やはり応援者がいないと,一度バッシングが起こるとかなり辛いでしょうね。

大黒 確かに,かなり辛い思いをすると思いますし,辛い思いもしました。でも逆に言えば,信念をもって行動した結果でバッシングされるのであれば,潔く腹もくくれるでしょう。過去の転職経験から言えば,新たな行動理由を頑張っても見つけられないとき,もしくは,やるだけやっても理解が得られないときに,初めて転職を考えても遅くはないと思います。

木崎 大黒さんの様なプロジェクト型の仕事ではない業務系の仕事だと,目線を変えるのも大変かもしれませんが,ユーザーに視点を持ってゆくアイデアは,業務系でもモチベーションを高める上で有効かもしれません。

大黒 業務系でも,目線を変えて3年も我慢すれば,新しい道が見えてくると思います。ちなみに,今の若い世代を見ていると,「目線」がどうのこうの言う前に,はなから転職を考える人が多いのでは,と気になっているのですが,みなさんどうでしょう。

木村 熱くない,さらっとした人が多い世代なのかもしれませんね。

木崎 そういう世代に,自らの意思で行動理由を探せというのは酷なんでしょうか

大黒 まぁ,行動理由を自ら探すというのは,自分自身の気持ちをコントロールする方法の1つだとは思います。

上司が正当に評価できなければ・・・