木崎 『日経ものづくり』編集委員の木崎です。製造業の技術者にとってのモチベーション,さらにはモチベーションにまつわるジレンマについて議論する「モチベーション・ジレンマ」の第2回。前回の“お金”に続いて,今回は“人”について話を進めたいと思います。

汗をかかない同僚に惑わされる

勝力 モチベーション・ジレンマというタイトルからすると,嫌な上司や部下がいても,いかに自分の気持ちが引きずられないか,ということが一番の焦点になりそうですね。

木崎 今まで遭遇した嫌な同僚って,どんな人ですか?

大黒 私の場合は,口だけ達者で,何もしない人間かな。ムッとして,頭に来ます。かなり気になってイライラしますよ。

木村 そういう人に限って,自分には甘く,部下には厳しく,上司には愛想がいい。

大黒 そんな三拍子そろった人がいると,今の歳なら何とかなるかもしれませんが,若いときは結構カッカきてましたね。

勝力 カッカきてたってことは,どうせ顔にも出ちゃってたんでしょう(笑)。

大黒 正解。まるで見ていたように言いますね(笑)。私はたとえ上司でも,嫌となったらとことん駄目で顔に「大嫌い」って書いてありました。だから,よく煙たがられて急に大阪転勤とか飛ばされました(ははは)。

木崎 口だけ達者といっても,言っていることが的を射ているなら,上司,部下に関わらず尊敬できるのではないですか? 大黒さんが嫌いなタイプは,当たり前のことを言っているだけで,自分では動かないタイプですかね。

大黒 そうです。この歳になって自分の性格を見つめなおすと,結局,汗をかかない人は,根本的に自分の性格と合わないのです。今は,IT関係の仕事に携わっていますが,システムはユーザーに使われてこそナンボの世界だと思うのです。だから,システムが定着して,きちんと運用されてこそ,初めて導入したことになると言う信念が私にはあります。

木村 ではIT,言い換えればシステム導入で汗をかかない人とは,どんな人だと大黒さんは考えているのですか?

大黒 システム導入で汗をかかない人間というのは,企画書,報告書ばかりに熱心で,ユーザーが直面する問題を一緒になって解決しようとしない,なおざり,棚上げ,他人事にする人間ですね。例えば,
●無理やりシステムを立ち上げて,しばらく問題をモグラ叩きしたら,「はい,問題なく動きました」「こんなに効果が出ました」「大成功です」と資料をでっち上げて報告する。
●それを見て周りは白けるが,システムの問題は山積みしているのでマッチポンプ状態。その間,ユーザーが混乱,動揺しても,知らん顔でお構いなし。
●報告が済んだら,いかに自分が逃げ切るかだけに腐心し,後から噴出する問題は「ユーザー自身の問題です」「悪いのはシステム管理者です」と澄ました顔で言う。
 皆さんも,こんなプロジェクトに参加したことがありませんか。結局,誰も責任を取らない状態で立ち上がったシステムは,最後には使われなくなるのですよね。だって,誰の気持ちも入っていませんから。

勝力 まるで,大黒さんの今まさに直面している不満を聞いているようですね。 確かに,そこまでひどくはないですが,自分の立場を守るため,企画書や報告書に記載する内容の表現にすごく気にする方はいらっしゃいますね。結果よりもそこにいたる過程にとても神経質で周囲を困らせている。でもそれは会社の文化が原因だったりするので,私が参画するプロジェクトにいつもそういう方がいるというわけではないですが。

大黒 私の周りからは良く聞く内容なんですけどね。それよりも,自分は後で「こんな仕事に一生懸命頑張ってきたのか」と後悔はしたくはないので,汗をかかない奴とは仕事をしたくはないです。

嫌な奴に調子を合わせない