電気自動車とガソリン環境税

 小型軽量であまり長距離を走らなくてよいタウン・カーであれば,電気自動車が一番合っています。電気自動車のエネルギー効率(Well to Wheel)は28.5%とガソリン車(12.4%)の約2.3倍と言われています。ハイブリッド車(24.8%)と比べても高くなります。本当は電気自動車自体の走行効率は67%と非常に高いのですが,商業電力の発電・送電効率が約43%と低いため,このような数字になります。
 
 CO2排出量で見ると,現在の日本の電力構成で計算してもガソリン車の約1/4。将来,駐車場で太陽電池充電機などが利用できるようになれば原理的にゼロにまで持っていけます。また,家庭でも安価な夜間電力で充電すれば,燃料代はガソリン車の1/10以下に減らせます。ただ,どうしても2次電池のコストが高すぎて普及の足かせになっています。もし,今の電池価格で100kmほどの走行距離を持つ軽自動車タイプの電気自動車を作ると,300万円以上(同じタイプのガソリン車は約100万円)はしてしまうとのことです。

 そこで,政府や自治体が購入時に150万円前後の補助金を出し,実質的な価格を150万円程度に下げる。残りの約50万円の差額は,ユーザーがガソリン代を節約することで元が取れるはず,という導入シナリオが考えられています(ここで引用した数値は,4月21日に日本経済新聞社が開催したシンポジウム「自動車と次世代エネルギー」における電気自動車開発メーカー各社や自治体の発表資料などを参考にした)。

 しかし,もし電気自動車を本気で普及させようと思ったら,このように購入時に補助金を付ける方法より,ドイツのようにガソリンに高い税金を掛ける方が,はるかに有効でしょう。いくら補助金方式で電気自動車を買いやすくしても,大部分を占めるガソリン車のユーザーには何もインパクトがないからです。物流コストが変わらない限り,相変わらず自動車工場の前にはジャスト・イン・タイムで部品を運ぶトラックが列をなし,街では1日に3回も4回もコンビニに弁当などの商品を運ぶトラックが走り回ります。ガソリンに環境税をかけて物流コストを大幅に上げない限り,資本の論理に従って物流は増え続けます。

 しかし,今の日本でガソリンに環境税を導入するのは,絶対に無理でしょう。まず産業界が大反対し,もしかしたら市民の一部も反対に回るかもしれません。物流コストの上昇はすべての物価を押し上げ,インフレによる所得の相対的な減少につながります。経団連は記者会見を開き,こんなことを言うと思います。

 「ただでさえ原油価格が高騰している中で,ガソリンに環境税を付加すれば,日本経済に致命的なダメージを与えるのは必定である。とりわけ,コスト上昇によって世界市場における競争力が低下すれば,日本製品は世界中から返品されてしまうだろう」。

 こんなことを,先日,Tech-On!のコラムニストでもある国連環境計画・金融イニシアチブ特別顧問の末吉竹二郎さんと話していたら,温厚な初老の紳士である氏が一瞬,真顔になってこう言ったのです。「いったい,そんなことを考えている国の製品を誰が買ってくれるものですか。それは日本の常識かもしれませんが,世界の常識ではありませんよ。世界はもっとずっと先を行っているんです」。

 むしろ,安いガソリン価格を維持してモノを作っている国の方が,これからの世界の常識では返品の山になってしまう。ちょうど今,中国の食品がボイコットに合っているのと同じように。末吉さんはそういう意味の事を話されていました。法律でもお金でもない,第三の力とは,世界共通の課題にいっしょに取り組んでいるという意識,そのことから生まれる相手への尊敬の気持ちなのでしょう。

 日本のように先に経済発展を遂げた国は,自分だけが儲かればいい,自分だけが競争で勝ち残れればいい,という20世紀型社会の常識を早く捨てて,新しい価値観やビジョンを世界に示さなくてはなりません。しかし,日本の社会,とくにビジネスの世界では,なぜかみんな大人びた態度になって,そういう議論を避ける傾向があります。だからこそ,日経エレクトロニクスのような技術雑誌であっても,ときには青臭いと批判されるような記事で,議論を巻き起した方がよいと思うのです。