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「誰がそんな国の製品を買ってくれるものですか」

田島 進=主任編集委員
2008/04/28 13:10
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 前回のこのコラムでも触れましたが,地球温暖化を防ぐために,日本などの先進国はこの先,CO2排出量を70~80%削減しなくてはならないと言われています。省エネ技術を積み重ねていくだけで達成できる目標ではなく,強力な政策(規制や税制)あるいは革新的なビジネス・モデルといった推進力が必要になるでしょう。筆者はそれに加えて,もう一つ重要な推進力があると思っています。

環境問題はコストである

 三番目の推進力とは,ぴったりした言葉が浮かばないのですが,ある種の人間の好き嫌いの感情のようなものです。美しいとか汚いとか,かっこ良いとか悪いとか,の気持ちです。マスメディアが作り上げる一時的な流行ではなく,人類の文化に共通する正義感や美意識,あるいはそれを実現しようとしている人に対する連帯感や尊敬の気持ちと言ってもいいでしょう。

 何を青臭い事を,という声が聞こえてきそうです。昔から「環境は商売にならない」と言われてきました。あるいはほぼ同じ意味で「経済活動の中に組み込まれない環境活動は,結局,有効に機能しない」という言い方もされてきました。世の中を動かしているのはお金と法律だけだと信じている人は,この三つ目の力をあまり認めようとしません。そういう人は,環境問題は企業活動のコストであると割り切り,RoHS指令EuP指令などの環境規制についても,たんにヨーロッパ経済界の保護貿易主義の現れだとしか理解しません。

 『日経エレクトロニクス』の2008年4月7日号に地球温暖化に関する特集記事が載っていましたが,そのタイトルは「CO2は見せて減らす」でした。EuP指令が施行されるとアセンブリ・メーカーは製品のトータルなCO2排出量の提示を求められるようになる。そこで,部品や材料ごとのCO2排出量をサプライヤーに要求するようになるだろう。しかし,材料メーカーや半導体メーカーは,部材ごとのCO2排出量など管理したことがないし,正直に実行しようとしたら大変なコストがかかる。これではRoHS指令の時以上に混乱を招きそうだ。だからこそ「こうした仕組みをいち早く,かつ低コストで運用できる形で構築できた企業だけが,ライバル企業を寄せ付けない競争力を得られる」という論調でした。

 この特集を書いた記者は,「CO2削減」という新ルールの追加に企業はどう対処すればよいか,という視点で取材し,さまざまなデータやキーパーソンのコメントを集めており,よくまとまっているという印象を持ちました。ただ,かなり長い記事であるにもかかわらず,日本の企業が地球温暖化というグローバルかつ長期的な課題に対して,いかに主体的に,あるいはどのようなビジョンを持って取り組もうとしているのか,という点についてはほとんど触れていません。取材先の企業が「環境はコストである」という論理を展開したとしても,雑誌の記者は少し目線を高くして,遠くまで見通した記事を書くべきではなかったのか,と身内ながらちょっと不満を感じています。

21世紀の自動車メーカー

 ところで,「CO2削減」という新ルールの適用に,一番戸惑っているのは自動車メーカーではないでしょうか。化石燃料がこれまでの20~30%しか使えなくなる時代を,自動車メーカーが生き延びるのは大変です。ハイブリッド車や電気自動車,バイオディーゼル車など,いろいろな環境対応技術が登場していますが,中堅の自動車メーカーにとっては,どの技術と心中するのか戦略を間違えると命取りになるでしょう。

 自動車メーカーにとってやっかいなのは,クルマ単独の技術革新だけでは事が収まらないことです。今,世界では,自動車を含む運輸セクターでCO2削減を実現するには,クルマの燃費向上などに頼るより,交通インフラや物流システムを根本から見直すべきだという議論がさかんになっています。日本のように政府と産業界の結びつきが強い国では,自動車メーカーの不利になるような規制はなかなか実施されませんが,ヨーロッパなど地方政府の権限が強い所では,自動車メーカーの顔色などまったく気にしないで,さまざまな規制が実施されています。都心部へのクルマの流入規制,ライトレールなど公共交通機関へのシフト,ガソリンへの高額な課税(環境税),など「できるだけクルマを使わない社会」への移行を進めています。地方政府の独立性という意味では,米国カリフォルニア州のZEV規制なども,同じ動きだと言えるかもしれません。

 「地域社会における1人ひとりの生活の幸福」というシンプルな価値基準で考えると,徒歩や自転車にバスと市電ぐらいを組み合わせた交通環境で,ゆったりとした時間の中を,コミュニティの人たちと触れ合いながら暮らしていく,というのはごく当たり前の選択になります。もちろん,こうした社会にマッチしたクルマという道具のあり方も,きっとあることでしょう。ただ,それは自動車メーカーが20世紀の間ずっと大量生産で作り続けてきたエネルギー多消費型のクルマではなさそうです。

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