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コラム

米社の社長と「製造の付加価値」で大激論

島津製作所 社長 服部 重彦 氏

2008/04/25 16:35
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服部 重彦 氏
写真:藤本 純夫

 我々は研究開発型メーカー。まあ,格好良く言えばそうなります。研究者とかお医者さんとか,そういう人たちが新たな発見や発明をしたり,あるいはお医者さんの場合は開業をしたりする際,それ支援するツールを供給しているメーカーです。その点で普通の企業とは違います。研究者やお医者さんの近くにいて,彼らにいい仕事をしてもらうためにも,我々がしっかりした仕事をせなあかんというポジションです。研究者のすぐそばにいるという意味でも,やっぱり研究開発型の企業なんですね。

米国で気付いた「製造にこそ付加価値」

 実は研究開発型企業というのはこれまで,製造面を少しおろそかにしたところがありました。何しろ多品種少量生産で,商品の種類は数千にも及びます。中には,1個造るのに1カ月も2カ月もかけるような商品もあります。こうした商品の特性から,どうしても製造よりも研究開発が中心になります。

 私はもともとクロマトグラフという分析機器の図面を描いていた技術者ですが,研究開発と製造の関係をずっと考えてきました。製造があって研究開発も生きるのではないか,ものづくりこそメーカーとしての存在感と付加価値があり,そこから利益が生まれるのではないかと。そのため,研究開発型企業でありながら,思い切ってものづくりを全部手元で徹底的にやってみようと思っています。ジャスト・イン・タイムなどの手法を取り入れることで,利益を大きく増やせる余地があるはずです。

――製造や工場を強化しようと思ったきっかけは何ですか。

 我々の商品はほとんどが多品種少量生産なので,世の中の常識ではジャスト・イン・タイムなんてできっこない,ということになっています。そこに挑戦したい。

 そのきっかけの一つは,私が米国にいた20年ぐらい前の経験です。競合する分析機器メーカーの社長が集まって会食した際に,「服部さん,ちょっとジャスト・イン・タイムとカイゼンを教えてよ。日本では普及しているんだよね」と聞かれました。当時は日本の製造業が最強といわれ,改善や系列がカタカナになって,そのまま英語になったわけです。もちろん当時の島津製作所はカイゼンはやってないし,ジャスト・イン・タイムにも取り組んでいない。その時に「ああ,我々は製造面を少しおろそかにしているな」と,ふっと思いました。いずれ製造を強化しなければならないと。彼らは20年前に日本からカイゼンを学んで取り組んでいるわけです。

 そういう思いもあって2年半ほど前,ものづくりの強化に取り組み始めました。始めてみたら,やっぱりジャスト・イン・タイムにしろカイゼンにしろ,付加価値が一日一日積み上がっていく仕組みになっているんですね。最初に考えた人は大したものだと思います。我々はまだまだ道半ばです。道半ばだけど,多品種少量でもカイゼンやジャスト・イン・タイムはできる,そういう自信はついてきました。

――カイゼンに関心が高い米国では,その一方でファブレス(自社で生産を行わず,すべて外部委託すること)がもてはやされていますが。

 20年前にはファブレスという考え方は,ほとんどありませんでした。でも,先ほどの米国の話には続きがあります。2006年5月に米国に出掛けて分析機器関係の米国企業の社長たちと話した時に,やっぱり製造の在り方で議論になりました。社長の一人が,ものづくりには付加価値がないって言い切るんですよ。非常に高価な500万円ぐらいする液体クロマトグラフを,設計も製造も含めて,もうバサッと外部に投げるわけですよ。それも海外に。もう図面も描かない。製造はムダだから自社ではやらないというわけ。

 私は「そんなのおかしいやないか。ものづくりは付加価値の大元やないか」と,もう強烈に反論しました。両方とも自説は曲げないから,大激論になりましたね。我々は全社を挙げて製造を強化しているところですが,ものづくり否定派に対しては「今に見とれ」というぐらいの気概があります。

 ただ,この社長の会社は極端な例かもしれません。米国でトヨタ生産方式がすごいって話は,今もよく聞きます。

――製造や工場の強化で,どんな成果が上がっているのでしょうか。

 取り組みの出発点は品質の向上で,コスト削減ではありません。我々の商品は最先端の研究開発にも使われるので,まだ工業的にはこなれていない最新技術を使うことが多い。このため,ちょっとしたことで安定性が損なわれたりトラブルを起こしたりすることがあります。だから品質を上げることは,製品価値の向上に直結するわけです。

 その次に納期です。お笑いになるかもしれませんが,研究開発用の機器は納期が非常に甘いんですよ。お客さんに,来週の金曜日に500万円の装置をお持ちしますって電話をしておいて,金曜日になったら「すいません。来週の月曜日です」という場合がある。これはお客さんにとっては迷惑ですから,納期をきちっと守らなければならない。そして三つめがコストです。

 もう一つ,ある意味で大きいのは,企業風土を変える原動力になることです。研究開発型企業に特有の甘さの残るこれまでの方法を改革したいわけですが,人の考え方を一気に変えるのは難しい。

 もともと島津製作所は仏像の製作から始まって,高額な機器を一つずつ,あれやこれや言いながら造ってきたわけです。このものづくりを変えたい。新工場を子会社化した理由もそのためです。決してうちの人間が怠けていたわけではないのですが,別組織として違うカルチャーを持った人を集めて,まず軌道に乗せてもらおうと思っています。それを見て「なるほど」と,これまでの人も考えを変える,という具合にしたい。

 子会社化したのは人件費抑制のためとみる人もいますが,そんな細かいことは考えていません。我々は,1時間当たりの人件費20円,30円の差を競うビジネスをしているわけではありませんから。

プロフィール
服部 重彦(はっとり・しげひこ)
 1964年4月に島津製作所入社,科学器械事業部でガスクロマトグラフの開発に従事。1989年1月米SSI社社長(米国駐在),1993年6月取締役(SSI社社長),1995年6月帰国(取締役試験計測事業部長),1997年6月に常務取締役,2003年6月に代表取締役社長に就任。2007年4月藍綬褒章受章。

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