激安が必要条件

 実は,パソコンは小さくなるほど価格が上がるのが業界の常識だった。出荷台数が少ない上,専用部品の新規開発が必要であるからだ。価格が高いから出荷台数が増えず,出荷台数が伸びないのでいつまでたっても安くならない。超小型パソコンの市場が立ち上がらない根底には,この悪循環がある。

 携帯電話機とノート・パソコンの間にある市場を開拓するには,こうしたパソコン業界の常識を見直さなければならない。ポイントは大きく二つある。その一つが価格に対する消費者の目である。ノート・パソコンよりも安くならなければ,超小型パソコンの市場は広がらないだろう。ASUSTeK社の「Eee PC 701シリーズ」がヒットしたのは,最初から399米ドルという思い切った価格を付けたからである。

 もう一つのポイントは,演算能力や機能は「そこそこ」でいいこと。大多数の消費者にとってはWebサイト上のコンテンツやサービスの「窓」として十分な能力を備えていればいい。現在の消費者は,高い演算能力よりも本体を手軽に持ち運べたり,デザインがよかったりする方を重視する。デザイン性を前面に出した米Apple社の「MacBook Air」はその象徴である。

IntelやMicrosoftでなくてもいい

 Intel社やMicrosoft社も,こうした要求を察知して対応を図っている。Intel社は,小型軽量パソコンなどに向け,安価なマイクロプロセサ「Atom」の量産出荷を間もなく開始する。既存のマイクロプロセサ「Core」の半分近くまで,価格を下げるとみられる。Microsoft社は,一部の小型軽量パソコンに対してWindows XP Home Editionの提供を継続する方針を固めた。当初はWindows Vistaへの完全以降を進める予定だった。

 部材費を減らしたいパソコン・メーカーにとってさらなる朗報は,Intel社やMicrosoft社の部品を採用する必然性が薄れていることである。インターネットの「窓」として十分な性能を提供すればいいからだ。例えば携帯電話機などの分野で成熟したARMコアを用いるプロセサも選択肢に入る。OSについては,ビジネス用途を重視しなければLinuxでも特に問題はない。Intel社とMicrosoft社以外の企業が提供する安価な部品を採用することで,両社の部品に対する値下げ圧力を高められる。