デザインに凝った携帯電話機でも,Motorola社は他社に先駆けていた。同社が2004年11月に発売した「RAZR V3」は,世界中で薄型ケータイ・ブームを巻き起こしたのは記憶に新しい。Motorola社は,iPodに近い機能を備える携帯電話機も作っていた。2004年7月,同社はApple社と提携して,楽曲管理ソフトウエア「iTunes」の機能を備えた携帯電話機を開発すると発表。2005年9月に,最初の端末「ROKR」が登場した注1)

注1)ただし,ROKRの音楽再生機能にはiPhoneにはない制約があった。保存する曲数が100曲までに限られていた。なお,Apple社が2007年1月にiPhoneを発表した際,開発着手から2年半が経過した旨の発言があった。逆算すると,Motorola社との提携を発表したころに開発に着手したことになる。

 これらの施策が功を奏していれば,携帯電話機市場におけるMotorola社の存在感は鰻登りに増しただろう。実際はその逆だった。同社の業績は2006年をピークに反転する。2006年第4四半期に同社の携帯電話機の出荷台数は過去最高の6570万台を記録。同社が推定した世界市場シェアは23.3%に達した。ところがその後,同社製端末の出荷台数は激減。2008年第1四半期には前年同期比40%減の2740万台に落ち込み,市場シェアは9.5%まで縮小してしまった。同社は,携帯電話機事業を分離・独立させる方針である

自然で楽しいインタフェース

 では,Motorola社とApple社の違いは何なのか。上記以外にiPhoneの優れた点として挙がることが多いのは,ユーザー・インタフェースの出来映えである。そこで日経エレクトロニクスは,日米のデザイン会社にiPhoneのユーザー・インタフェースの評価を依頼した。その結果明らかになったのは,iPhoneのユーザー・インタフェースは,ユーザーが自然に操作でき,使っていて楽しく感じるように入念に作られていることだった。このようなユーザー・インタフェースが,iPhoneの成功の大きな鍵だったことは間違いなさそうだ。

 例えばタッチパネルを使った操作は,直感的である一方で誤動作が少なくない。タッチパネルから得られるわずかな情報から,ユーザーの意図を推測しなければならないからである。ユーザーの指が触れた場所や離れた場所,触っていた時間などから,ユーザーが画面上の何かを選んだのか,画面をスクロールしたいのか,間違って触ってしまったのか,などを判定する必要がある。Apple社はiPhoneのユーザーに違和感を覚えさせないように,意図の判定に使うアルゴリズムや数値を入念にチューニングしたことが伺える。このほか,タッチ・パネルによる操作を滑らかに動くアニメーションと組み合わせたことや,機能を絞り込んだことなどが,iPhoneの操作感や魅力を高めていることが分かった。

動画指の動きを異なる操作に対応させる(約58秒の動画)
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 こうしたユーザー・インタフェースを作り出すには,日本の機器メーカーは開発体制を見直す必要があることも示唆された。機器の使い勝手を高める常套手段は,開発の初期段階でユーザーに使ってもらい,操作系を評価・修正する方法である。この方法では,ユーザーに馴染みがない斬新なインタフェースや,チューニングで操作感が大きく変わるインタフェースを適切に評価できない。このジレンマを乗り越えるには,ユーザーに提供するインタフェースの明確なビジョンを持って開発に臨むことが重要である。しかもそれがメーカーの独りよがりに陥らないよう,ユーザーの要求を先取りするセンスも要る。今後のインターネット端末市場で成功するには,日本メーカーにもこうした素養が求められそうだ。