ケータイがネット端末に

 iPhoneの登場を受けて,海外の携帯電話機メーカーは相次いで対抗機種を開発している。2008年2月に開催された携帯電話関連の世界最大級のイベント「Mobile World Congress 2008」では,iPhoneと同様にタッチ・パネルを利用した携帯電話機の展示が相次いだ。米Google社が2007年11月に発表したソフトウエア基盤「Android」の狙いも,携帯電話機をインターネット端末にすることにある。Androidを組み込んだ端末は,2008年のクリスマス・シーズンにも登場する見込みだ

 海外でのこうした動きは,日本メーカーに世界市場進出のチャンスを与えるかもしれない。日本では,NTTドコモが1999年に始めた「iモード」を皮切りに,携帯電話機からのインターネット・アクセスは一般的になった。当初はパソコンからアクセスする場合と比べて見栄えや機能が見劣りしていたが,数年前に登場した「フルブラウザー」の搭載などにより,状況は改善されている。ソフトバンクモバイルが2008年3月に発売した「インターネットマシン」のように,今ではインターネット・アクセスを主要な用途とする端末もある。

 こうした端末は,iPhoneに見劣りしない機能や性能を備える。ただし,それをそのまま世界市場に持っていっても受け入れられないことは,過去の歴史が証明している。日本メーカーの携帯電話機は,価格が高いなどの理由で海外では失敗を続けてきた。携帯電話機をインターネット端末にする動きが世界各地で盛り上がる中で,国内メーカーは,これまでの経験を生かしてうまく波に乗れるかどうかが問われている。

Motorola社には作れなかった

 なぜiPhoneはユーザーの行動を大きく変えることができたのか。その理由を探っていくと,インターネットにつながる携帯機器にユーザーが求める条件が浮かび上がってくる。既存の携帯電話機メーカーは,必ずしもその条件を満たせなかった。インターネットにつながる携帯電話機に限らず,同じ市場を狙う超小型パソコンでも,事情は変わらないだろう。新たに生まれるインターネット端末の市場を目指す企業が,iPhoneから学べることは少なくない。

 iPhoneの目に付く特徴から成功の理由を推測すると,タッチ・パネルの利用,瀟洒な外観デザイン,世界的に人気の高いiPodの機能を備えていることなどが挙げられる。仮にこれらがiPhoneの肝だったとすると,Apple社よりも先に成功していたはずのメーカーがある。米Motorola社である。

 2004年にMotorola社は,「A1000」と呼ぶ携帯電話機を発売したフルブラウザーや電子メール・クライアントの機能を備えたネットワーク端末である。約3インチ型の液晶パネルを備え,キーボードの代わりにタッチ・パネルをペンで押して操作する。Bluetoothの通信機能があり,GPRS方式のデータ通信やW-CDMA網による音声通話ができた。翌2005年には,A1000を基に無線LANを内蔵するなどの改良を加えた端末「M1000」を日本市場に投入。その実売価格は5万円程度と,売れ筋の8Gバイト・モデルの価格が当初は599米ドルだったiPhoneよりもむしろ安かったほどである。これらの製品は,表面上はiPhoneと類似しているが,iPhoneほどの成功は収めなかった。