『日経エレクトロニクス』,1995年10月9日号,p.21から。

 狙いは,外形寸法がノート・パソコンと電子手帳の間にある機器の市場を開拓すること。各社はそこに大きな需要があると見た。これらの機器は,当時パソコンの主要な用途だったワープロや表計算ソフトを使うには小さすぎる。その代わり常に持ち運べるので,電子メールのやりとりや各種の情報へのアクセスに使える。いずれ一人が一台持つ「メディア」になることを夢みたこれらの製品は,大して売れることもなく時代の波間に消えていった。

 それでも日本メーカーはあきらめなかった。多くのメーカーが同程度の大きさのパソコンを,繰り返し出し続けた。1995年,日本IBM「Palm Top PC110」。1996年東芝「Libretto 20」。2000年,富士通「FMV-BIBLO LOOX」,2002年,ソニー「バイオU」…。いずれも,新たな製品ジャンルを生むほどの成功は収めなかった。

 そして今。日本メーカーが長年描いてきた夢は,ようやく現実になりつつある。ところがその口火を切ったのは,国内のどのメーカーでもない。いったい日本勢は,どこで道を誤ったのだろうか。

2008年に500万台

Eee PC 新たな市場の幕開けを告げたのは,台湾ASUSTeK Computer Inc.が2007年10月に発売した「Eee PC 701シリーズ」である。7インチの液晶ディスプレイを備え,外形寸法は幅225mm×奥行き164mm×厚さ22mm(最厚部37mm)。ASUSTeK社の目標は,2008年に500万台の出荷という。日本メーカーが追い求めてきた超小型のパソコン市場で,これまでになかった規模である。富士通の「LOOX Uシリーズ」が「2007年度に世界で10万台という目標を達成できそう」というだけでヒットとみなされていた1)ことから考えると,桁違いの目標だ。

 ASUSTeK社PresidentのJerry Shen氏は,この製品を「インターネットの利用をメインに据えた」機器と見なす。「インターネットから情報を得たり,動画や写真を見たり,音楽を聞いたり。…家庭向けパソコンの主用途はエンターテインメントともいえます」(同氏)。まさに,日本メーカーが思い描いた「メディア」機器そのものである。

参考文献
1)内田,「UMPC[Ultra-Mobile PC]」,『日経エレクトロニクス』,2008年2月11日号,p.45.