——一般に,ユーザー体験を良くするほど,コストが上がってしまいますが…。

 それを防ぐのが,我々の持つ技術や経験,事業規模です。例えば,熱設計の技術力の一端は,Eee PC 701が空冷ファンを備えていないことが示しています。価値の高い部品やその供給メーカーを知っているかどうかもカギです。スピーカーは安価な割に高音質なものを選び出しました。Eee PC 701は家庭でのエンターテインメント向けですからね。

 フラッシュ・メモリや液晶パネルの価格を抑えるには,当社グループの購買力が生きました。あまり消費者には知られていませんが,当社グループのデスクトップ/ノート・パソコンの生産高は,受託分を含めると世界トップクラスです。デスクトップ機用のマザーボードの生産枚数シェアは世界で40%近くもあります。基板設計などで生きる電子工学関連の技術力は,台湾Hon Hai Precision Industry Co., Ltd.(鴻海精密工業,通称Foxconn)の上を確実に行っています。

——Eee PC 701に続きEeeシリーズを立ち上げると聞いています。どんな商品を投入するのですか。

 「Eee」ブランドは,ノート・パソコン専用ではありません。簡単操作などを意味する商品コンセプトです。今後発売する商品として,デスクトップ・パソコン「Eee Desktop」や液晶モニター「Eee Monitor」,薄型テレビ「Eee TV」を考えています。前の二つは2009年後半くらいに市場投入したい。

 Eee TVはまだアイデア段階ですが,実はパソコンが入っている薄型テレビです。この販売地域は台湾だけになるでしょう。

インタビューを終えて

 ASUSTeK社はかつて,Hon Hai社と同様,水面下の巨大メーカーでした。パソコンに限らず「iPod」の一部機種や「プレイステーション」シリーズの設計・製造も担っています。ただ,Hon Hai社と違うのは,自社ブランドの完成品事業に全力投球すると決めたことです。2008年1月には自社ブランド品の企画・販売部門などを残す一方,ODM/EMS事業をPegatron(和碩)社とUnihan(永碩)社に割り振りました。Eee PC 701はこうした戦略転換の中で生まれたのです。製造部門を切り出して,一足早く世界市場で成功を収めた台湾企業としてAcer社があります。インタビューではAcer社との違いにも話が及びました。「Acer社もASUSTeK社も値ごろ感がある製品を開発するが,クールさへのこだわりでASUSTeK社が上回るのか」という問いに,Shen氏が力強くうなずいたことが印象に残っています。こうした開発方針に基づき,ASUSTeK社がEee PC 701に続いて今後,どんな商品を作り出すのか,ウオッチしていきます。(大槻)

沈 振來(Jerry Shen) 台湾National Taiwan University(台灣大学)電機所やAcer(宏碁)社を経て,ASUSTeK(華碩)社に入社。2008年1月より同社 総経理に就任。

日経エレクトロニクス2008年2月11日号表紙本記事は日経エレクトロニクス2008年2月11日号掲載の記事を再録したものです。

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