Jerry Shen, ASUSTeK Computer Inc.,President
(写真:栗原 克己)

——従来のノート・パソコンよりも安価なEee PC 701を,あえて発売した理由は何でしょうか。

 開発の背景には,パソコンの演算能力がもはや重要でなくなったという事実があります。

 これまでパソコン向けマイクロプロセサの演算能力は,おおむね一本調子に高まってきました。「286」から「386」,そして各種の「Pentium」と。そしてマルチコアが登場した時も,CPUコアの数は一つから二つ,四つと短期間に増えていくかのように思えました。しかし,家庭用パソコンの現実はそうなってはいません。なぜでしょうか。

 家庭用パソコンの最大の用途はインターネットになったからです。インターネットから情報を得たり,動画や写真を見たり,音楽を聞いたり。Web 2.0と呼ぶユーザー参加型Webサービスもますます普及している。家庭向けパソコンの主用途はエンターテインメントともいえます。

 こうした使い方が主流になっているのに,現状は,ユーザー・ニーズをはるかに超えた演算能力を持つパソコンばかりが販売されています。マルチコア・プロセサの恩恵を真に受けられるのは,ゲーム・ソフトのユーザーくらいなのに,です。

 このことは「Windows Vista」にもいえます。このOSの機能を快適に使おうとすると,パソコンには主記憶を2Gバイトも搭載しなければなりません。

 そこで我々は家庭ユーザーに向けてインターネットの利用をメインに据えた,2台目のパソコンを開発することにしました。

 発展途上国におけるパソコン教育を推進する非営利団体「OLPC(One Laptop per Child)」の存在も,開発を後押ししました。米Massachusetts Institute of Technology(MIT)のNicholas Negroponte氏が旗を振るOLPCは,低価格のノート・パソコン「XO」を独自に開発し,発展途上国の政府と協力して学校などにXOを普及させる活動を行っています。

 この活動を見て「我々ならもっとうまくやれる」と考えました。非営利団体のOLPCでは展開のスピードが遅いのですが,民間企業である当社なら販売力や部品購買力などをフル活用し,スピーディーに動けます。実際,インドや中国,ロシアでEee PC 701の納入計画が着々と進んでいます。米Intel Corp.と協力し,中南米やアフリカの政府にも納入していきたい。