全員参加で洗練したトヨタ生産方式

 

 海外生産が拡大しているということで,紹介したように大きく三つの課題を抱えています。これらの課題を解決するための取り組みを通じて,日本の生産の役割は一体何であるのか? 次にこの点について話します。

 トヨタの生産というと,一番基本には「トヨタ生産方式」があります。まずは簡単に,トヨタ生産方式の特長を説明し,その後,国内生産の役割について,話を進めたいと思います。

 トヨタ生産方式には2本の柱があります。「ジャストインタイム」そして「自働化」です。ジャストインタイムは,必要なものを必要なときに,必要な量だけ造るということで,トヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎の思想を生産指数としてまとめてきたのです。

 もう一つの柱である自働化は,自動織機の発明者であり,豊田グループの創始者でもある豊田佐吉にその考え方のルーツがあります。彼が取り組んだ発明の原点は,異常があれば止める,不良品は絶対に造らない,それから人を機械の番人にしない,という点にあります。この流れをくんだ自働化を,長年にわたって我々も進めてきたわけです。

 今から約60年前の1950年頃に,デフレ不況の中でトヨタが大変な不況に陥った時期があります。資金がないうえに,欧米に比べると技術レベルも相当低く,持っているのは人間だけという状況でした(図4)。

図4:激動期に生まれたトヨタ生産方式

 当時,欧米の生産性は,日本の8倍ほどだと言われていました。これは大変進んだ生産技術のおかげだったのですが,そういうものに太刀打ちするために,徹底したジャストインタイムの展開に取り組みました。それと共に,自働化の考え方をくるま造りの隅々まで行き渡らせて,人の生産性を画期的に向上させてきたのです。

 その中で,トヨタ生産方式というのが,段々リファインされてきた,ということです。トヨタ生産方式の基本思想は,徹底したムダの排除にあります。お客様に良い製品をタイムリーに届けることを目的に,生産現場において長い年月をかけ,試行錯誤を繰り返しながらトヨタ生産方式が進化してきました(図5)。常に,異常やムダを見えるようにして,改善を続けることで,理想の状態に近付けてきたのです。そして,すべての人が改善に参画し,レベルアップしていく。それを継続的に実施する文化が生まれてきているのです。我々の海外生産は1950年代に始まりましたが,本格的に欧米生産がスタートしたのは1980年代ということで,大変歴史的には浅いです。

図5:トヨタ生産方式の基本思想=徹底した無駄の排除

 現地の生産者は,常に日本の生産者と同等の品質であることが求められ,日本で根付いているトヨタ式のものづくりを海外にも展開,定着させる事が大きな課題となるのです。また言葉や文化の違う所で,先程説明したトヨタ生産方式のような考え方が,本当に展開,定着できるのかという心配もありました。当時の先輩たちは,非常に苦労しながら,それを海外に持っていったわけですが,結果としては受け入れられました。どこの国でもものづくりの現場では,一生懸命やれば受け入れてもらえるということがわかってまいりました。

 これは,トヨタ生産方式ではあらゆるレベルの従業員が,共通理解の前提で全員参加する,ということです。エネルギーも大変にいるのですが,それを進めていくと,従業員,個人の達成感も得られるということで,定着してきたのではないかと思います。(次回に続く)