トヨタ自動車の内山田です。

トヨタ自動車副社長・内山田竹志氏

 事務局からは,「これからの日本のものづくり」といった内容で講演してほしい,という依頼がありました。私もこれまでに,いろいろな会社の方と話をしたり,また実際のものづくりの現場も見せてもらったりしてきましたが,一言でなかなか共通するようなものづくりというのはありません。それぞれ違う造り方をしていますし,違う生産に対する戦略を持っています。そこで,抽象論で話すよりは,我々が実際にどのように考えているかということを,多くの事例と共に紹介した方が,何か参考にしてもらえるのではないかと思いました。今日はトヨタ自動車が考えている日本のものづくり,ということに特化して紹介します。

 今日は以下の三つのテーマでお話いたします。

(1)グローバル生産の現状と課題
(2)国内生産の役割
(3)持続的成長力確保のために~トヨタウェイに基づく内製モノづくり力強化~

海外生産が国内生産を上回る

 まず最初にトヨタ自動車のグローバル生産の現状と課題です。

 図1に,トヨタのグローバルでの生産台数推移を示します。三つに分けていますが,一番上の薄い緑の部分が海外生産です。その下の二つが国内生産で,国内生産は国内販売と海外向け輸出に分けています。

図1:グローバル生産台数推移

 1990年頃までは,年20万台位の規模で生産が伸びていました。90年を過ぎてから,海外生産は増えている一方で,国内のバブルが崩壊したり,急激な円高になったりして,国内生産は減少が続きました。全体では,ほとんど10年間横ばいという状況です。2001年以降は,海外販売が急速に伸びたので,海外生産がどんどん増えました。年60万台位の規模の増産を続けているという状況です。

 ついに昨年2007年は,トヨタ自動車として初めて国内生産を海外生産が上回るということになりました。この基調は,これからどんどん続くと考えています。海外生産が国内生産を上回り,さらに伸びが大きいのですから,海外生産に軸足を移す新しい時代になってきたという思いがあります。

 我々のグローバル生産の基本的な考え方は,需要のある所で生産する,ということで,ここは各社で随分考え方が違っています。我々は,需要のある所で生産するということから,基本的にはグローバル分散生産になっています。一方で,グローバルにある特定の地域で受注生産して,世界中にデリバリーをするという会社もありますし,新製品は日本で生産して,成熟してこなれた製品については,グローバルにどこかで集中生産というような方針をとられている会社もあると思います。

 ここの前提によってこれ以降の話が随分と違ってくるのですが,トヨタ自動車としては,少なくとも自動車車両の生産については,需要のある所で生産する。そして,これが成り立つために前提となるのが,大きく二つあります。どこで造っても同じ品質で物が出来るということ,各地域,各国に生産事業体を構えるのですから,各国ごとに国際競争力を確保してもらうこと。この二つができないと,グローバル生産というのは,成り立たないのです。

生産に関する三つの課題

 

 こうした状況の中で,現在,トヨタ自動車が生産ということで抱えている課題は大きく三つあります。

図2:急速な海外従業員数増加

 一つ目の課題は,海外生産の急速な伸びと共に,海外従業員の数そのものが急速に伸びている,ということです。図2に示すように,2000年頃は海外従業員の数は6万人規模でした。それが2006年では,その2倍の12万人を超えております。海外生産がこれからどんどん伸びれば,海外従業員の数が伸びるということで,これから人材の量と質をどうやって確保するかということが一つの課題です。

 二つ目の課題は,海外生産能力の拡大が平常的に続くということです。図3に2006年から2008年に新設する主な車両工場,および能力を増強する車両工場を示していますが,現在毎年3~4工場の拡張計画を進めています。1年に三つから四つ,工場を造ったり拡張したりするために,誰かが仕事をしなくちゃいけないわけです。この生産拠点の拡大をしていくためのリソースをどのように確保していくのか。これが課題なのです。

図3:海外生産能力の急拡大

 三つ目の課題は,日本から海外への支援工数の増加です。トヨタ自動車では,2008年1月末時点で,世界27カ国,53の地域で生産事業体が生産を行っています。拠点が増えることで,新製品の切り替えなどのプロジェクトもどんどん増えていて,日本からの海外支援工数がどんどんどんどん増えていってしまう,ということです。

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