先に挙げたHDDにまつわる話でいえば、富士通の垂直磁気記録方式がその一例だろうか。80年代後半から90年代前半にかけて、垂直磁気記録方式を採用した先進的なHDDを世に送るべく米国ベンチャー企業やいくつかの日本メーカーが競い合っていた。その中にあって、多くの研究成果を生み、実用化の最右翼と目されていたのが富士通である。けれど、周辺技術が未熟だったため信頼性の問題がどうしても解決できず、富士通は90年代前半にこの事業化をあきらめ撤退する。その後、垂直磁気記録方式は復活し、多くの先進的な製品で採用されるようになった。けれど、その「第2の実用化競争期」にあって、極めてこの技術の採用に慎重だったのが、かつての急進派であった富士通である。

松下もソニーも

 ディスプレイの分野でも似たようなことがあった。テレビ最大手の松下電器産業は、さすがにディスプレイ・デバイスの新技術には敏感で、関係者によれば液晶に関しても「研究に着手したのも電機メーカーとしては最も速い部類で、初期段階ではダントツの実績を誇っていた」らしい。けれど、なかなか実用化の道筋は見えてこない。周囲によれば「そこでしびれを切らして研究開発を中断してしまった。その後遺症か、液晶が本命と分かってからもついに本格的な再参入に踏み切れず、現在に至っている」。

 テレビにおけるもう一方の雄、ソニーの場合はプラズマ・ディスプレイ(PDP)である。改めて調べてみようとしたものの資料が見つからず、あやふやな話になって恐縮だが、同社は80年代にPDPのポテンシャルに注目し、同分野で新技術を提案し注目されていたあるベンチャー企業に資本参加し、確か最終的には完全子会社にしたように記憶している。

 こうして、外からみると相当な意欲をもってこの会社に資金を投入し続け、PDPの事業化を目指した。けれど、結局は失敗し、この分野から撤退するのである。「この失敗がトラウマになって、フラットパネル・ディスプレイはもうこりごりという雰囲気になってしまった。このことがその後の展開に大きな影響を与えたのは事実」というのは、ソニー関係者の証言である。