古田氏は「従来技術にこだわり世界の潮流に乗り遅れて失敗するのが日本のパターン、つまり鈍感」というお考えだった。そうかもと思いつつも、私にはどうもしっくりこない。以前に、これとは逆の話を聞いたことがあったからである。以前に一度書いたので簡単に書くと、こんなことである。

 日本メーカーはHDDの研究開発で先行しながらも、なかなかビジネスでは成功できない。その要因としてある技術者の方は、「日本メーカーの経営陣は発想が技術者だから、HDDも10年も前から『どうせいつかは半導体メモリに置き換えられるんだろ』と考え、積極的な設備投資をしてこなかったから」と指摘されていた。いつかは置き換えられるとして、それは5年先なのか10年先なのか。ずいぶん先ならば、投資しても十分に回収できる。それを冷静に見極め、積極攻勢をかけるかスッパリと手を引くのかを判断することこそが経営者の仕事。けれどその判断を下さず、結果としてゆっくりフェードアウトさせてしまった。

こっそり逃げを打つ

 この指摘で重要なのは、一つにメーカーの方々は過敏なほどに新技術のポテンシャルを理解していらっしゃるということ。もう一つは、同じ認識を持つ経営者がそれを理由に攻勢をかけることをためらう傾向にあるということだろう。

 後者の「フェードアウト」については、別の専門家の方から「それって日本メーカーの得意技ですよね」との指摘を受けたことがある。例えば研究テーマなどにしても、5人のグループでやっていたものを次の年には3人にし、さらには2人にし、資金も絞りつつ「自然死」を待つのだという。その最大要因として挙げておられたのが「責任の所在を不明朗にすること」、つまり判断を下すべき者の保身である。「現場力」「鈍感力」などやたら力を付けるのが流行りのようだから、それ風にいえば「保身力」といったところか。もちろんこちらは負の力であるのだが。

 同じようなケースはないかと、新技術に関する「経営判断」についていろいろな事例を思い起こしていたら、日本メーカーにはある典型的な失敗パターンがあるのではないかと気付いた。すなわち、「他に先駆けて手掛けるが、時期尚早で事業化に失敗する。するとそれがトラウマになり再参入で大きな遅れをとる」というかたちである。この結果、その分野のパイオニアでありながら事業化では大きな後れをとる、あるいは事業化そのものを諦めてしまう。古田氏から「従来技術にこだわっている」と見える現象も詳細にみれば、こんな前段階のプロセスがあるのではと思ってみたりするのである。