儲けたい人ほど儲けられない

 そういえば、ソフトブレーンの創業者である宋文洲さんのメルマガに、「高く買って安く売る人達の欲」なる一文があった。もともと高くない日本の株をいったい誰がさらに売り込んでいるのかという謎について、宋氏は「多くはたぶんそれより高い値段で買った」人で、「こんな理不尽なことをする唯一の理由は損の拡大に怯えているから」と推測する。さらにこうも付け加える。

「高く買って安く売る」人は欲のない人ではなく、欲の強い人です。短期的な評価損を許せない欲の強い人です。彼らは決して儲けたくない人達ではなく、儲けしか考えられない人達です。投資で利益を得る人は、間違いなく損もする人達です。彼らは自分が信じる価値に投資を行い、損する時も淡々と納得しているのです。彼らは投資にはリスクがあり、リスクとは実際に損もするという心の準備ができています。不思議なことに損を気にしない人のほうが儲かるのです。不思議なことに株価の変動に一喜一憂する人は儲かりません。不思議なことに欲を抑えられない人は儲からないのです。

 この論からすれば私の行動は、間違いなく損をする「高く買って安く売る」タイプではない。だったら儲かるタイプに分類されそうだが、残念ながら現実はそうでもないようだ。決定的に違うのは、私の場合「損をするときも淡々と納得している」という境地からはほど遠いことだろう。「高く買ったら怖くて売れない」という保身タイプも、どうやら「損をする人」の仲間であるようだ。

技術に鈍感か、敏感か

 いずれにせよ、美術品の売買は個人のことだから、保身的行為によっていくら損をしようと、家族からは顰蹙をかうくらいのことで、とりあえずよそ様に迷惑をおかけするようなことはない。だが企業人、特に経営層の方たちが同じように保身に走るようなことになったらどうか。ずいぶん周囲に不幸を振りまく結果になりはしないかと思うのである。

 このことを考えるキッカケになったのは、私が担当をしているコラムでご寄稿をいただいている古田健二氏の原稿である。この原稿を仕上げる段階でいくつかの点で古田氏と議論になったのだが、その一つが「日本企業は新技術に対して敏感か鈍感か」ということだった。