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仲森 智博=編集委員
2008/04/04 15:00
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 画を売った。江戸後期の山水画で、さほど著名ではない大徳寺の禅僧が描いた掛軸である。入手したばかりだったのだが、知り合いの美術商から「近く交換会(業者によるオークション)があるけど、何か売りたいものある?」と聞かれ、ほかの所持品何点かと一緒に渡してしまった。実は、お金に困っているのである。このところ美術品の価格が下落していて、思わぬものが安く買える。それがうれしくて、何だかいろいろ買い込みすぎてしまったのだ。

 一介のサラリーマンである私にはまとまった資金などというものはないから、一方的に買い続けることはできない。新しいものを買えば、手元のものを処分してその借金を埋めなければならないのである。でも、安く買えるときは売っても安い。それをついつい忘れてしまい、買いすぎてしまう。困ったことである。

 ちなみに、その軸の買値は数千円。それが何と数万円で売れた。たまにはこんなこともあるのである。「うんうん、おれの眼力も捨てたもんじゃない」などと一人で悦に入り、「これに慢心することなく、さらに鑑識眼を磨かねば」ということで先日、有名古美術店が集まって展示即売する催事に出かけた。そこでふと見ると、あの軸が飾られているではないか。恐る恐る値札をみると、ン十万円。さっきまで「得をした」とものすごく喜んでいたのに、それを見たら何だか急に損をしたような気になって、悄然としてその会場を後にしたのであった。

気付けば不良在庫の山

 よく考えてみれば、高く売れたわけだから何も落胆することはない。「売っても買ったときの値段に届かない」確率の方が高いはずなのだから。簡単な理屈である。古美術店は、仕入値に何割かの利益を乗せた金額で売る。けれどもそれを買い取ってもらうときは、小売価格ではなく仕入値相当になってしまう。つまり、売り買いを続けていけば回数×利益分は目減りしていく計算になるのだ。もちろん「思わぬ掘り出し物だった」こともあるが、「頑張って買ったのによく出来たニセモノだった」ということもあるわけだし。

 そんなことは分かっている。分かっていても、買い値より随分安くしか売れなかったときはいたくヘコむ。だから、売るときは幸運にも安く買えたもの、つまり損をしそうにないものを優先処分してしまうのである。これを続けているとコレクションは、美術的価値はさておき経済的には不良在庫の山となる。「これを売ったら絶対に損するよな」というものは塩漬けになるわけだから、キャッシュフローが細る。これが企業であれば、「経営的にぜんぜんダメ、社長はクビ」ということになるのだろう。われながら情けない。

 なぜこうなってしまうかは明白である。人間が小さいから、とりあえず損をすること、つまり失うことが怖いのである。だから守りに入る。簡単にいえば、保身ということだろう。

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