将来を語るとき使うのは言葉である。言葉は力だが、言葉だけでは世の中は変らない。だからこそ日本の存在は大きい。日本の強みである技術、それが達成してきた実績が、言葉にさらなる力を与える。けれど、それらを本当に世界の中で生かしていくにはヴィジョンが必要だ。ヴィジョンもなく実績を誇示しても、国際社会の共感は得られない。

 日本は早くそのことに気づくべきだ。欧米が得意とする「ヴィジョンを掲げ相手の土俵で勝負をする」気構えを持たなければ、日本の21世紀は決して明るくはならない。

世界の中の日本

 もう一度冒頭の視点に戻りたい。世界の中における日本の立ち位置である。いま、国際社会が直面する諸問題は必ずしも日本自身が直接抱える問題でないことも多い。例えば、貧困問題、難民問題、はたまた安全な水の問題などなど。もちろん、日本と世界の共通問題もいくらでもある。だが、どんな問題にせよ国際社会が直面する問題に対し、日本がどれほどの理解と共感性を示すかで日本の世界における立ち位置は変わる。それによって日本の器量が見透かされるのである。

 日本がどれほど世界を必要としているかは、日本にいるより世界から見るほうがよくわかる。わかるからこそ、日本は国際社会との連帯感をもっと前面に打ち出す必要があると強く感じるのである。ただやっかいなのは、世界の国々とともに問題の解決に当たる場合、日本にとって有利なやり方を国際社会が支持するとは限らないことだ。みなで決めた解決手法が、日本にとっては不利なものになるかもしれないのである。だからこそ、日本はもっと積極的に世界の問題に関与し、仲間の一員としての印象を強く植え付けるべきだと思う。

 日本が東洋の一島国で自らの力だけで慎ましやかに生きていける国であるならば、世界のことには目を被い「我関せず」を貫いていればいいのかもしれない。だが、日本は国民の努力の結果、GDP世界第2位の堂々たる世界の大国になってしまった。地球社会の一員として世界の問題にもっと負担の伴う責任ある役割を担うのは当然のことである。

著者紹介

末吉竹二郎(すえよし・たけじろう)=国連環境計画・金融イニシアチブ(UNEPFI)特別顧問

1945年1月、鹿児島県生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱銀行入行。ニューヨーク支店長、同行取締役、東京三菱銀行信託会社(ニューヨーク)頭取、日興アセットマネジメント副社長などを歴任。日興アセット時代にUNEPFIの運営委員会のメンバーに就任したのをきっかけに、この運動の支援に乗り出した。2002年6月の退社を機に、UNEPFI国際会議の東京招致に専念。2003年10月の東京会議を成功裏に終え、現在も引き続きUNEPFIにかかわる。企業の社外取締役や社外監査役を務めるかたわら、環境問題や企業の社会的責任(CSR/SRI)について、各種審議会、講演、テレビなどを通じて啓蒙に努めている。趣味はスポーツ。2003年ワイン・エキスパート呼称資格取得。著書に『日本新生』(北星堂)『カーボン・リスク』(北星堂、共著)『有害連鎖』(幻冬舎)がある。