記者は記者、技術者ではない

 記者は記者であって、経営者でも技術者でもない。記者のプロフェッショナルである必要があるが、必ずしも経営や技術のプロフェッショナルでなくてもよい。弊社に来て下さった経営者が我々に求めたのは、新しい世界を素早く理解し分かりやすく報道することであった。その結果として、経営者や技術者にメッセージを投げ、鼓舞し、時には怒る格好になるわけだ。

 「新しい世界を素早く理解し分かりやすく報道する」ことは、極論すれば専門分野の素人であってもできる。当然、経営をしたことがない記者であってもできる。繰り返すが、記者の素人であっては駄目だ。もっとも「素早く」は難しいかもしれない。専門用語や経営用語を理解するまで時間がかかり、通常以上に取材時間を頂戴することになりかねないからだ。

 専門分野の知識は不要、と居直っているわけではない。取材する専門分野に敬意を払い、専門家と同じくらいの知識を見につけるつもりで取り組む必要があるが、記者は記者なのだから、専門家にはなれないし、それでいいのである。

 来社された経営者は、経済雑誌に不信の念を持たれていたようで、勢い余って日頃の不満をつい口に出してしまったのだろう。仮に、その雑誌が駄目であったとしたら、それは経営未経験者が書いているからではなく、駄目な記者が書き、駄目な編集長が編集しているからである。

 それでは記者の玄人とは何か。昨年下書きをした時、この点についてもあれこれ書いたのだが、それは記者向けに発信すべきことであるから割愛したい。勿体ぶっているわけではない。問題意識を持って自明の理を疑う、人の話を理解し聞き出す、品質管理をきちんとする、といった具合なので実業の玄人とほとんど同じになってしまう。「ジャーナリズムはかくあるべし」と言ったり、「社会正義」を論う人がおられるが、それは大変危険な考えである。