新聞報道などからも感じられる通り、日本企業においても本当の意味での事業のRestructuring(戦略的事業の再編)が電機関連業界において起こりつつあるようだ。すなわち、事業拡大=売上増を基本として追及してきた日本企業が、その視点を企業価値へと転じてきていることを、単なる掛け声ではなく実際の行動として示し始めたということだろう。戦略コンサルタントとして活動している筆者から見ると、「やっとか」という感じもあるが、とりあえず好ましい方向への動きが現実化したことは歓迎すべきだと思う。

 3月5日付の日本経済新聞に面白い記事が掲載されていた。その中で目を引いたのが、電機業界における主要企業の株式時価総額を示したグラフである。2005年末と2008年3月4日の時価総額を比較しているのだが、時価総額が増加している企業として取り上げているのは東芝、三菱電機、シャープで、東芝と三菱電機がそれぞれ+1874億円、+1524億円で抜けていて、シャープは+599億円である。一方、時価総額を下げた企業としてソニー、日立製作所、松下電器産業が挙げられており、そのうちソニーは-21億円と微減だが、日立製作所-2593億円、松下電器産業-3066億円と大きな減少幅になっている。

 これについてはいろいろな解釈があるだろうが、戦略的な視点からはきわめて単純に理解することができる。大幅なプラスとなっている東芝はHD DVDからの撤退、三菱電機は携帯電話事業からの撤退という苦渋の、だが前向きな経営判断を下した2社である。

 一方大幅なマイナスとなっている日立製作所は、事業の再編が遅々として進まず、やっと手をつけたHDD事業からの撤退交渉が不調に終わり、依然として古い経営スタイルから抜け出せないでいる。

 松下電器産業がマイナス組に入っているのは意外な感があるが、理由は二つ考えられる。一つは比較の時期の関係である。2005年末の時価総額と比較しているが、2005年は松下電器産業がV字回復を果たしている最中で、市場が過剰反応し株高が行き過ぎていた状態だったのかも知れない。もう一つは戦略的なことで、ここでの議論と関係することである。松下電器産業にとっては負けることのできないテレビ事業のてこ入れのためとはいえ、従来から大規模な投資を続けているプラズマ・ディスプレイのみならず、液晶ディスプレイの生産まで手掛けるという判断を下した。このことに対する懸念の表れとみることができるのではないか。こうしてみると、株式市場が下す時価総額は、グローバルに繰り広げられる競争の渦中において下される戦略的経営判断の評価そのものであることがわかる。