小生はよくタクシーを使ってフィールドリサーチをする。フィールドリサーチとはその名の通り、現場に行っていろいろ観察することで、マーケティングの基本中の基本といえるものである。

 手法は大まかに2種類ある。一つは、その場所に赴いて視察すること。「新しくオープンした店がすごい人気を呼んでいるということで、とりあえず視察に行ってみた」などというケースがそれに該当するだろう。もう一つは定点観測。同じ場所、同じ環境で時代の変化や他との違いを比較分析する方法をいう。

 小生は定点観測として、タクシーに乗るたびに運転手に「ねぇねぇ、最近はどこが人気スポットなの」などと尋ねてみることにしている。百聞は一見にしかずというが、年がら年中、街中をぐるぐると走り回っている彼らは、街で今何が起こっているかを誰よりも一番知っている。そんな彼らの意見は、ちょっと聞くだけでもたいへんためになるものだ。

 さらには、重要なビジネスチャンスのヒントが得られることだってある。運転手は客の会話も実はしっかり聞いている。だから、羽振りのいい業界はどこ、儲かっているのは誰ということを実によく知っているのだ。ラッキーなときなどは、どこの急成長企業がいつ上場するなんていう情報が入手できることもある。そんな「運転手のうわさ」情報で小遣い程度ながらも投資配当をゲットした経験もある。いや、あなどれない。

 そんな、甘い期待を抱きつつ、春一番が吹き荒れた日の晩にタクシーで帰宅することにした。すると、乗ったとたんに運転手が嘆き始めたのである。

 「お客さんは道路関係の人じゃないよね?」
 「ああ、ちがうよ、ただのしがない教師だよ」
 「そうですか、いえね、先ほどちょっとありましてね、こんなことを人には言えない話なんだけど・・・」

 どうやら自分の胸に納めていられなくなったらしく、とつとつと運転手は話し始めた。