国家戦略が見えないのは他の重要分野でもそうだ。義務教育、科学技術の振興、社会保障、医療システム、などなど枚挙に暇がない。国民の日常生活から国の骨格まで、長期的な視点での議論がどこまであるのか見えてこない、戦略なき漂流状況だ。それを打破すべき政治家も、地元支持者の利害しか念頭にないようにみえる。

 かつて教えてもらった米国先住民のことばがある。コミュニティにとって重要な問題は「7代先の世代のことを考えて決めろ」というものだ。米国先住民たちは、現代の日本人よりはるかに厳しい状況を生き抜いてきた人々だといえるだろう。毎日の生活を成立させることに追われる日々だったに違いない。その人たちがこんな長期主義を掟としていたのである。私はこの言葉を聞いたとき、頭をガツンと叩かれた思いをした。

 日常的な問題に日々悩まされている中では、なかなか長期主義を堅持するのは難しい。でも、それに流されているだけでは問題は何も解決しないだろう。短期主義を排し、長期主義でまっとうにモノを考える。国や政治に期待できないのであれば、皆で頭のギアチェンジをするしかないだろう。企業といった組織レベルで、国に先駆けてそれを達成してしまうしかない。

 そのためには、まずは個人。自分の将来を長期主義で考えてみる。例えば、自分にこう問うてみることから始めればよい。「10年後、自分はどこで何をしていたいのだろうか」。

著者紹介

末吉竹二郎(すえよし・たけじろう)=国連環境計画・金融イニシアチブ(UNEPFI)特別顧問
1945年1月、鹿児島県生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱銀行入行。ニューヨーク支店長、同行取締役、東京三菱銀行信託会社(ニューヨーク)頭取、日興アセットマネジメント副社長などを歴任。日興アセット時代にUNEPFIの運営委員会のメンバーに就任したのをきっかけに、この運動の支援に乗り出した。2002年6月の退社を機に、UNEPFI国際会議の東京招致に専念。2003年10月の東京会議を成功裏に終え、現在も引き続きUNEPFIにかかわる。企業の社外取締役や社外監査役を務めるかたわら、環境問題や企業の社会的責任(CSR/SRI)について、各種審議会、講演、テレビなどを通じて啓蒙に努めている。趣味はスポーツ。2003年ワイン・エキスパート呼称資格取得。著書に『日本新生』(北星堂)『カーボン・リスク』(北星堂、共著)『有害連鎖』(幻冬舎)がある。