変わらないのなら、変えるしかない。やはり中村氏の言う通り、会社を辞めるしかないのだろうか。どうせ会社にいても、いつかはスキルチェンジを強いられる。ならば、それを機に職場も変える。エレクトロニクス系、ソフトウエア系の技術者にとって幸いなのは、自動車関連企業などがその分野の技術者を大量に欲していることだ。技術トレンドから考えて、その傾向はしばらく続くだろう。IT系、ネット系の技術者だって大いにチャンスはある。保険、金融、流通など、多くの分野で専門知識を身につけた人材が求められているからだ。何も、メーカー間の転職にこだわることはない。

 こうして、技術者の世界に「自分を生かすために職場を自身の判断で変えるのは普通のこと」という風潮が根付づいたとしても、中村氏が思い浮かべるように「何億円という報酬を手にする技術者がごろごろと出現する」状況になるとは思えない。そもそも、そのように絶大な格差が生まれる状況が、日本に暮らす人々のメンタリティに適うのかという疑問がある。けれど、技術者全体の処遇を底上げする効果は相当にあるのではと思う。

 一方で、処遇改善の効果を発揮するほどリソースの流動化が進むのはいつのことやら、という懸念もある。そうなれば、当面残された手段は労働組合の再活性化ということか。既存の労働組合に奮起を促すというのが普通だろうが、個人的には何だか期待ができない。いっそのこと古いイデオロギーに縛られない、新タイプの組合を結成する方が手っ取り早いだろう。どこかでそんな動きが生まれないかと期待しているのだが。

 私だって若くて血気盛んなころは、既存組合の現状を目の当たりにして「いっそ新組合を旗揚げしたら」などと思わぬでもなかった。社員食堂で「やらなきゃダメだよな」とか、その構想の一端を同期の友人に漏らすこともあったかもしれない。

 けど、実際にやったのは、ヘンな名前のソフトボールチームを結成したことくらい。われながら「ちっちぇーなぁ」と思う。