高画質,長期保存に課題

 データが消える不安のほかに,HDDには容量不足の不安が常に付きまとう。容量に限りがあり,しかも媒体を交換できないHDDの場合,保存したコンテンツは,いつか消さなくてはならない。

 米国や国内で販売される現行HDDレコーダは,30Gバイト程度のHDDを搭載している。録画時間は,画質に応じて5時間~20時間程度である注4)。タイム・シフト向けと割り切り,録画した番組は長期保存しない,画質も求めないというのであれば十分な時間といえよう。

 しかし,アナログVTRの使い勝手に慣れたユーザが,こうした時間制限を受け入れるかどうかは不明である。それに,高画質で映画を何本も保存したい要求に対しては,必ずしも十分な録画時間とはいえない。録画時間が5時間なら映画は2本程度しか入らない。3本目を保存したければ,少なくともいずれか1本は消さなければならない。しかも,これらをHDD内に保存している限り,ニュースや天気予報などのタイム・シフト録画に使える容量も減ってしまう。HDDを増設すれば解消できるが,装置はVTRカセットや光ディスク媒体のように手軽に買い増せる価格ではない。

パッケージ再生機能がない

 HDDレコーダが抱える二つ目の不安は,パッケージ・ソフトの再生機能がないことだ。現行のHDDレコーダの用途は,主に無料テレビ放送の番組をタイム・シフト録画をするのみ。パッケージ・ソフトの再生は,VTRやDVDプレーヤなどに頼らざるを得ない。

 BSディジタル放送という“ビック・パイプ”や広帯域ネットワークを使ったオン・デマンド型の映像サービスが始まれば,パッケージ・ソフトの再生機能はいらなくなるかもしれない。しかし,こうしたサービスはまだない。登場までには時間がかかりそうだ。

 こうしたサービスがビジネス・モデルの再構築を強いるからである。コンテンツ供給者は,一般に以下の順序でコンテンツを提供し,多段階に料金を徴収する。(1)映画館,(2)レンタルやセル・スルーのVTRカセットやDVDなどのパッケージ・ソフト,(3)有料放送,(4)無料放送である。この仕組みを捨てて新たなオン・デマンド型サービスに移行するには,レンタルやセル・スルー・ソフトの利用者がすべて新サービスに移行可能になっていることが前提条件になる。


図4 早期にHDDレコーダとの融合を目指す
2002年~2003年には青紫色レーザ光源を使う次世代の光ディスク・レコーダが登場する。ところが同時期にはハード・ディスク装置(HDD)を内蔵したディジタル放送受信機が家庭に浸透し始めている。機器メーカは,開発当初からこの受信機と次世代光ディスク装置の複合機をねらい,早ければほぼ同時期に市場へ投入する。(図:本誌)

 このほか,著作権保護方式が明確になっていない点も,コンテンツ配信の普及が遅れる要因になる。著作権の問題を棚上げにしてHDDレコーダに対してコンテンツを配信すれば,コピーされ,ネットワーク経由で他のユーザに提供するような事態が起こりかねない。

 現在,インターネットを介したユーザ同士のコンテンツ交換で問題の中心になっているのは音楽である。しかし,すでにDVD-Videoタイトルのデータを不正に復号化してHDDに保存したものが一部で交換されて始めたとの報告もあり,問題が映像に波及するのは必至だ。

HDDと光ディスクは融合へ