蘇民祭に、さまざまなものを見た。JR東日本盛岡支社からポスターの掲載が拒否されたことによって逆に有名になった祭りである。

 JRは「見る人に不快感を与える」として自主規制した。JRの広告規制が厳しいことは、関わったことのある人ならだれでも知っている。電車内のいわゆる中吊りでは、モデル女性の肌の露出が過ぎるといった理由で掲載拒否されることもある。しかしそのことに、大方は納得している。公共交通はさまざまな人が利用するものなのだから。けれど、今回の掲載拒否には何か引っかかるところがあった。

 まず、蘇民祭は毎年催されているのであり、ふんどし姿の男子の写真もとりたてて特別なものではないからだ。たまたま今年のモデルになった佐藤真治さんの胸毛が立派だったことが「不快感」だとするなら、毛の濃い人への差別であろう。

 この事件をキッカケにわかったことは、モデルの佐藤さんをはじめ参加者が真摯に祭りを愛していることだ。そして、彼らがかわいそうじゃないかということになる。こんなことがあったから、2月13日の夜に行われた祭は大いに関心を集めることになった。

 何でも、170人のマスコミ取材陣が殺到し、15億円もの広告効果をもたらしたという。私もテレビで見た。山道に松明を掲げた男たちが集い、坂を下りてゆくと川がある。薄氷の張ったその川に飛び込み、水をすくってかぶる。見ているほうが凍りそうになる凄惨なものだ。それを3回繰り返し、今度は火責めにあう。やぐらに組んだ丸太に火をつけ、そこに上るのだ。

 しかしここまでは序幕のお清めで、本番はその次に繰り広げられる袋の争奪戦だ。裸の男たちがラグビーのモールのように「蘇民袋」を奪い合う。そして最後に勝ち残った男が袋を切るのだが、その際は何も身にまとわないのが慣例らしい。そもそも「ふんどし一丁」なのも不浄なものを身につけないのが決まりだからだという。

 ポスター事件があったものだから、岩手県警水沢署は「もし裸で外を歩くなら公然わいせつ罪の適用も辞さない」と警告した。袋争奪戦で人の群は、黒石寺内にとどまらず国道まであふれ出る。それを見越してのことだろうが、私はこう勘ぐった。地元警察は対外的に芝居を打ったのではないかと思ったのである。「度を越せば逮捕することもあります」ということは、つまり「自分たちで罰しますから、どうかよその地域の方々はご静観ください」ということではないかと。