直接的に利益を生み出すものは商品である。だから、商品開発を目的とした開発費投入への抵抗は少ない。けれど、技術開発自体は直接的にイメージできる特定の商品開発を目指すものではないので、投資効果を重視する現在の経営としては認めにくい。けれど、商品開発の手段として技術開発の位置付けが明確に説明できるようになれば、それも変わるはずである。「このような商品を○年後に商品化しようと考えているが、その商品の優位性を確保するためには×××技術が必要なので、この技術開発をテーマとして取り上げなければならない」といった、商品と技術が関連付けられた説明を聞けば、多くの経営者は納得できるはずである。

10年先を見る努力が重要

 筆者の知るところでは、ロードマップを効果的に使っている日本企業の例として村田製作所が挙げられる。同社はご存知のように変化の激しい電子部品業界に属しながら、10年先までのロードマップを作成している。この業界で10年先などが見えるかという懸念を抱く方が多いのではと思う。筆者もその通りだと思う。

 では、彼らの作業は無駄なものなのか。いや、そうではないと思う。彼らは言う。「重要なのはロードマップの内容そのものではなく、10年先を見ようとする努力とその意識で開発に取組むことである」と。まったく同感である。

 ロードマップの普及に熱心な経済産業省は、活動の一環として世界のロードマップ研究者から意見を聴取して「技術戦略マップ2006」にまとめているが、多くの研究者がこの問題について村田製作所とまったく同様なコメントをしている。

 米ノースウエスタン大学のビジネススクールであるケロッグスクールのMichael Radnor教授がうまいことを言っている。“Roadmapping is rather important than roadmaps”、つまり、「ロードマップに意味があるのではなく、それを作る過程にこそ意味がある」ということだ。