前回は,製造業,特に製造現場で使える3次元データとは,どのようなものなのかを解説した。今回はその3次元データを使う人々について解説したいと思う。

 3次元CADが出現する前,ものづくりに携わる人々は,ほとんどの情報を設計図面から入手していた。図面をよく観察して設計者の意図を理解,そこに潜んでいる形状を寸法などのデータを頼りにしながら,最終的には3次元モデルとして造りあげる。すなわち,2次元のデータ(3面図,寸法,補助線など)から脳内で3次元モデリングを行っていたのだ。熟練した人々は,旋盤やフライス盤を駆使し,この脳内モデリングされた形状を具現化してきた。

 すなわち(1)図面を良く理解する→(2)寸法や補助線などの情報から形状を創造する→(3)形状を具現化するための方法を考える――この一連の流れを,スムーズに実践することが求められたのだ。

 もちろん,3次元CADが普及してきている現在においても,脳内モデリングは非常に大事な能力と言える。では,このように熟練された脳内モデリングを,3次元CADに置き換えることは可能だろうか?

 3次元CADや3次元ツールを駆使することで,3次元データを使う人の層はよりいっそう広がる。3次元CADを利用すれば,あたかも手に取れるような3次元形状を作り出すことが可能だ。3次元CAD内で高度に表現されたモデルデータは,視覚的な3次元情報を伝達できる。その情報は設計者だけでなく,管理者や生産現場で働く作業者などさまざまな人々で共有されるようになる。このため,同一の3次元形状と同一の情報をもとに共同作業が可能になるのだ。

 では,3次元データをうまく使いこなすには,どのようなスキルが必要になるのだろうか。それはこれまでは脳内で3次元形状をモデリングしていたものを,3次元ツールで再現できる能力を身につける事だ。そうすれば,3次元ツールを駆使することで,より高度に,素早く,情報の共有ができるようになる。すなわち,これまでは熟練の技術者が脳内モデリングを行い,ひとつの図面を共有して作業していた環境を,図面に替わって3次元データを共有する環境に変えられるのだ。

 フローで書けば,(1)まずは,脳内で形状を思い浮かべる→(2)3次元ツールでその形状を再現する→(3)その形状が正しいか検証する――といった,高度な流れに変えられるのだ。

 今まで3次元CADや3次元ツールを使ったことがない人々でも,3次元データは使いこなせる。何より一番大事なことは,3次元CADや3次元ツールを使いこなすスキルより,3次元形状を創造できる力,3次元形状を具現化できる力を持つことだ。そして3次元データを見て,その業務に必要な情報を的確に読み出せる力だ。3次元データを造る人が,その後の工程や現場をよく知るほど,実際に造られた3次元データが効果的に活用される。問題点の早期発見,品質管理の前倒しが行われ,ものづくりにおけるプロセスが変わるのだ。

 ところが,従来のプロセスにおいて確立した手法,品質管理,人々のスキルを替えるには非常に時間とリスクが伴うことだろう。本当の意味で3次元データを使える人とは,製造業の工程を理解していてその工程ごと必要な情報が何であるかを理解している人と言える。

 3次元データを使いこなすということは,製造業の工程や作業を理解することにより実現される。現地現物主義により,3次元ツールと言う仮想の空間内での情報を的確に役立てることが可能となる。そんな知識とスキルを身につけている人が,3次元データを使える人と言える。