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松下電器・キヤノン・日立連合の意味(前編)・競争力を持つ有機ELの技術開発は今後に期待

後藤陽子=SBIインテクストラ コンサルタント・弁理士
2008/01/18 13:00
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 2007年12月19日,日本経済新聞朝刊に,液晶に関して,松下電器産業・キヤノン・日立製作所が連合すると報じられた(Tech-On!関連記事)。3社は,「液晶ディスプレイの事業,技術のさらなる強化,発展を目的に,包括的な提携を行うことで基本合意した」(プレスリリース)と発表している。具体的には,2008年3月までにキヤノンと松下が日立から日立ディスプレイズの株式を譲り受け,日立ディスプレイズへの出資比率を松下とキヤノンが24.9%,日立が50.2%とするとしている。そして,さらに次の段階としては,中小型液晶パネルの製造販売を手掛ける日立ディスプレイズについてはキヤノンが,IPS液晶パネルの製造販売を手掛けるIPSアルファテクノロジについては松下が,過半数の株式を取得する予定であるという(図1)。


図1 3社連合の概要 (画像のクリックで拡大)

 今回のプレスリリースでは,液晶パネルに関する提携のみならず,有機ELについても言及されている。キヤノンは高度なディスプレイ技術を保有する日立グループと共同で有機ELディスプレイの開発を加速させたいとしており,また,松下はIPSアルファの次期工場での有機ELディスプレイの展開を視野に入れていくとしている。日立自身は有機ELに関しては各社との共同開発を明言はしていないものの,液晶パネルのみならず,次世代パネルの本命ともいえる有機ELパネルに関しても,この3社連合の枠組みが維持されていく可能性は高い。

 では,有機ELについて,この3社の実力はどの程度なのか。3社連合で有機ELの開発競争に勝算がついたといえるのか,もしくはさらなる提携が必要されているのか。有機ELパネルの開発競争における3社連合誕生の意義を理解すべく,3社連合により各社の実力の強化に成功したかということを技術の側面からみていく。まず,この3社が連合する前の各社の技術力について分析を行う。分析には,公開されている特許情報をもとにして,特許を保有する企業の技術的な競争力を測る指標であるPCI(Patent Competency Index)を利用する。PCIとは,SBIインテクストラが独自に開発したもので,各特許の注目度などを被引用数や情報提供数などのリアクション数により計測し,個々の特許の質を数値化した指標である。

個々の企業では低水準


図2 日本特許における件数シェアとPCIシェアのレーダーチャート (画像のクリックで拡大)

図3 米国特許における件数シェアとPCIシェアのレーダーチャート (画像のクリックで拡大)

 図2は日本の特許について,件数シェア,PCIシェアをそれぞれレーダーチャートでまとめたもの。一方で図3は米国特許についてのレーダーチャートである。比較をするために,日本,米国の各市場で,有機EL全体,有機EL材料,ガラス基板及び有機EL製造装置のそれぞれについて,シェアがトップの企業を「トップ企業」としてベンチマークしている。

 日本特許については,有機EL製造装置においてキヤノンが比較的出願件数が多いことを除けば,連合に加わったいずれの企業も件数,PCIシェアともに低水準に留まっている。特にPCIシェアに関しては,トップ企業からは大きく引き離されており,いずれの企業もまだ十分な技術競争力を確保することができていないことが浮き彫りになる。

 米国特許に目を移すと,登録件数についてはやはりいずれの企業もトップ企業との乖離は大きい。PCIシェアは,キヤノンが有機EL製造装置の分野で高いPCIシェアを獲得しているほかは,いずれも低く,十分な技術競争力を有している企業はないようである。

3社連合で件数は伸びるものの

 続いてこのたびの連合誕生による競争力の変化について,松下電器産業,キヤノン,日立製作所,日立ディスプレイズを「3社連合」として分析する。


図4 日本特許における3社連合のレーダーチャート (画像のクリックで拡大)

図5 米国特許における3社連合のレーダーチャート (画像のクリックで拡大)

 図4は日本特許についてのレーダーチャート,図5は米国特許についてのレーダーチャートである。件数ベースでは日米とも,トップ企業にはまだ及ばないものの,有機EL材料,ガラス基板及び有機EL製造装置のそれぞれについてバランスよく増加している。また,有機EL全体ではトップ企業の半数程度までシェアを伸ばしてきている。そのためこの分析からは,この3社が協力することは極めて妥当であり,よい補完関係にあるように思われる。

 しかし,PCI値をみてみると,米国の有機EL製造装置を除いては,トップ企業とのシェアの差が件数シェアよりも開く傾向にある。すなわち,有機ELパネルの事業化に不可欠なガラス基板及び有機EL材料に関して,連合後もまだ十分な技術競争力を確保できていないと思われる。ここにこの3社連合の危うさが垣間見える。件数ではバランスよく補完しているように見えても,技術競争力では補完関係はまだ不十分と思われる。そのためこの3社連合には,今後さらなる再編・拡大が必要となってくると考える。

 次回の後編では,今後の再編の動向を占う。


    今回の分析条件

    【分析対象の特定(検索条件)】

    <<日本市場>>
    ●有機EL全体
    キーワード(発明の名称or要約or請求項)=
    (有機 and エレクトロ and ルミネッセン)or(有機 and EL)or OLED
    ●有機EL材料
    S1:キーワード(発明の名称 or 要約 or 請求項)=
    (有機 and エレクトロ and ルミネッセン)or(有機 and EL)or OLED
    S2:筆頭IPC= C09K11/06 or H01L51/54 or H01L27/28 or H05B33/06 or H05B33/28
    S3:キーワード(発明の名称 or 要約 or 請求項)=
    正孔材料 or 低分子 or 高分子 or 基板材料 or 封止材料 or 正孔輸送材料 or 発光材料 or 電子輸送材料 or 陽極 or 透明電極 or ITO or IZO
    S1 and (S2 or S3)
    ●ガラス基板
    S1:IPC=C03C3 or C03C4 or C03C8 or C03C10
    S2:キーワード(発明の名称 or 要約 or 請求項)=
    ディスプレイ or パネル or 有機EL or エレクトロルミネ or 液晶 or PDP or FPD
    S3:キーワード(発明の名称 or 要約 or 請求項)=ガラス and 基板
    S1 and S2 and S3
    ●有機EL製造装置
    S1:キーワード(発明の名称 or 要約 or 請求項)=
    (有機 and エレクトロ and ルミネッセン)or(有機 and EL)or OLED
    S2:出願人=(アプライド and マテリアルズ)or(アルバック or アルバツク)or 東京エレクトロン or ニコン or キヤノン or 大日本スクリーン or 日立ハイテクノロジー or日立プラントテクノロジ or 芝浦メカトロニクス or ダイフク
    S3:キーワード(発明の名称 or 要約 or 請求項)=製造装置
    S1 and (S2 or S3)
    ※なお、キャノンとニコンを出願人とする特許については、ディスプレイ製造装置以外のものも含まれているため、目視によりノイズ除去を行なった。

    <<米国市場>>
    ●有機EL全体
    キーワード(発明の名称 or 要約 or 請求項)=
    (organic electroluminescence) or (organic Light Emitting Diode) or OLED or (Organic electroluminescence) or (Organic Light Emitting Diode) or (organic light emitting diode) or oled
    ●有機EL材料
    S1:キーワード(発明の名称 or 要約 or 請求項)=
    (organic electroluminescence) or (organic Light Emitting Diode) or OLED or (Organic electroluminescence) or (Organic Light Emitting Diode) or (organic light emitting diode) or oled
    S2:筆頭IPC= C09K11/06 or H01L51/54 or H01L27/28 or H05B33/06 or H05B33/28
    S3:キーワード(発明の名称 or 要約 or 請求項)=
    hole or material or acceptor or ((molecular or molecule) and (low or high or giant or macro or polymer)) or (hole and transport and material) or (emitting and material) or (luminescence and material) or (electronic and transport and material) or (anode and plate) or (positive and electrode) or (positive and post) or (transparent and electrode) or ITO or IZO
    S1 and (S2 or S3)
    ●ガラス基板
    S1:IPC=C03C3 or C03C4 or C03C8 or C03C10
    S2:キーワード(発明の名称 or 要約 or 請求項)=display and panel
    S1 and S2
    ●有機EL製造装置
    S1:キーワード(発明の名称 or 要約 or 請求項)=
    (organic electroluminescence) or (organic Light Emitting Diode) or OLED or (Organic electroluminescence) or (Organic Light Emitting Diode) or (organic light emitting diode) or oled
    S2:出願人=
    (Applied Materials) or Ulvac or (Tokyo Electron) or Nikon or Canon or (Dainippon screen) or (Hitachi High Technologies) or (Hitachi Plant Technologies) or (Shibaura Mechatronics) or Daifuku
    S3:キーワード(発明の名称 or 要約 or 請求項)=
    (apparatus or equipment) and manufactur
    S1 and (S2 or S3)
    ※なお、キヤノンを出願人とする特許については、ディスプレイ製造装置以外のものも含まれているため、目視によりノイズ除去を行なった。

    【本分析に利用したPCI指標】
    <<日本国特許>>
    「他社からの注目度を示すPCI指標項目」に80%,「自社の注力度を示すPCI指標項目」に20%のウェイト付けを行なって各特許のPCI値を算出した後,特許のステータスにより以下のパーセンテージをかけて算出した。
    登録特許:100%,審査請求済み特許:50%,公開済み特許:30%,消滅特許:0%
    <<米国特許>>
    「他社からの注目度を示すPCI指標項目」に100%のウェイト付けを行なって各特許のPCI値を算出した後,特許のステータスにより以下のパーセンテージをかけて算出した。
    登録特許:100%,消滅特許:0%


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日時:2015年9月2日(水)・3日(木)
いずれも10:00~18:00
会場:京王品川ビル セミナールーム(東京・品川)
主催:日経テクノロジーオンライン
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