先日、二つの興味深いニュースが同じ日に流れた。大きな扱いの記事ではないが、二つの戦略の対比が興味深かったのでここで引用したい。

 一つは、Googleが太陽光や風力、地熱などを利用した発電技術といった代替エネルギー開発に数億ドルを投資するというもの。もう一つは、イオンと三洋電機が共同で、イオンのプライベートブランドである「トップバリュ」ブランドの家電を開発するというもので、低価格路線ではなく、省エネとデザイン性の高い商品を目指すとしている。

 Googleの戦略は、同社のコアである技術やビジネス領域から大きく逸脱しているようにみえる。そこに一挙に投資してしまおうというのだから、かなり大胆な戦略に思えるのだ。これは想像するしかないのだが、検索エンジンについて世界中のあらゆる情報を記録、整理するという大胆なコンセプトを打ち出している企業であるから、この新しい事業に関しても、理念やビジョン、事業コンセプトなどは上流のところで彼らなりにきちんと整合は取れているのだろう。

 一方、三洋の戦略は、自社ブランドではなくイオンのプライベートブランドのために家電を開発しようというものである。市場で強力なブランドを持たない同社が、既に持っている家電の開発と製造技術というリソースをそのまま活用し、弱いブランド力をカバーできる戦略はないかと考え立案したものであろう。省エネとデザイン性の高いものらしいが、自社のブランドを拠り所にしたり育て上げたりする戦略ではない。OEMを得意としてきた三洋らしい戦略であり、基本的に今までのビジネスモデルを踏襲している。

戦略と組織

 その良し悪しではなく、どうしてこのような戦略の差が生まれるかということについて、今回は議論してみたい。

 Googleは今や大企業だが、まだ成長段階にある企業である。これに対して三洋は停滞期にある企業だ。このことが戦略に大きく関係していることは異論がないだろう。ではどのように戦略に影響を及ぼしているのだろうか。

 前回のコラムで私は、「組織は戦略に従う」ことを大前提に、戦略の必要性について述べた。戦略とそれを支える組織は表裏一体であり、切り離して考えることはできない。しかし、大前提はまず戦略ありきだと主張したつもりだ。今回の事例は、この大前提とは見かけ上は逆になる。では、「組織は戦略に従う」という前提が間違っているのだろか。

 戦略を実行する際、組織に大きな変化を強いることがある。戦略遂行を行ってきた組織は、過去の戦略遂行によって組織がチューニングされてきているのだ。この組織が企業の理念やビジョンに沿った事業や製品のコンセプトを立案するのであるから、結果的に組織が戦略に影響を与えることになる。すなわち、戦略は組織の理念やビジョンを反映したものであり、戦略遂行によって組織は調整され、結果的に理念やビジョンは影響を受けるわけだ。

Googleは強襲型

 最近私が注目している本に『ブレイクアウトストラテジー』(シドニー・フィンケルシュタイン著)がある。これによると、急成長を続けている企業はそうでない企業には決定的な違いがあり、優良企業は瞬時に市場を制することのできるブレイクアウト戦略を採っていると主張している。この本の戦略論を紹介し、前述のニュースの事例に適用して考えてみたい。

 このブレイクアウト戦略は、新技術やサービスでいきなりトップを占める「強襲型」、地方で成功した企業が一気に世界市場を制する「拡張型」、低迷していた名門企業が復活する「巻き返し型」、トップにいる企業が更に市場獲得を目指し変身する「変身型」の4タイプに分類できるという。

 この戦略を実現するための様々な要因について詳しく解説がされているが、その中で、「組織ビジョン」「顧客への価値提供」「ビジネスモデル」「プロジェクトとプログラム」が輪となって連鎖するブレイクアウトストラテジーのサイクルというものが示されている。

 さらには、四つの要素に対して戦略的リーダーシップが影響を与えていることも示されている。戦略の創造や遂行にはリーダーシップを大きな要素として扱っているのだが、それについては後述するとして、まずは前述の2事例をこのブレイクアウト戦略と比較して検証してみたい。

 冒頭のGoogleの例は「強襲型」に相当するだろう…(次ページへ