「そうそう、可視化するにしても、ブレストツールの○とか□じゃなくて、☆とかハートマークとかあるといいね。どれが閃いたアイデアなのか分かりやすくなるし。色付けも外側に向かうほど薄くなるグラデーションなんかが使えるようにしてほしい。アイデアの根源となるキーワードを中心に、放射状に発想の拡散が起きているなんている様子がよく見えるようになるからね。プロジェクトチームがみんなでアイデアを書き込んだVisio共有ファイルなんかもあると便利だね。それを更新のレイヤー別にみると、特定メンバーの発想が浮き彫りにできる。段階を追った時系列発想の筋道を個性たっぷりの脳内図として摘出することもできるし。それから…」

 半日しゃべりにしゃべった。すると、それに圧倒されたのか、担当者から「商品化しちゃいましょうか」というありがたい提案をいただきた。あぁ、嘘も数しゃべればそのうち当たる…。

 といった具合で講演準備は進んだのだが、果たして当日の反応はいかにと内心は心配でしょうがなかった。なにせ業務合理化とか営業促進といった「効果てきめん(かもしれない)系」のツールはもてはやされるが、「発想系マーケティング支援ソフト」のような奥ゆかしいものは、日本ではあまり売れ行きがよろしくないのだ。講演会受講者いっせいに退出とかなったらどうしよう。

 そんな不安をよそに、講演会は始まった。壇上から見えた聴講者の反応を振り返ってみると、以下のような感じだろうか。


(画像のクリックで拡大)

 講演のお題は「Microsoft Office Visio 2007」を使った「頭の中身の可視化」。自分の頭の中身を裸の王様さながらに晒すわけで、ちょっとはずかしい。まず講演では、業務の3要素であるPLAN(仮説・発想)、DO(組織化)、SEE(消費者の反応と経営状況判断)に対応できるのはVisioだけで、アイデア重視のPLAN段階とマーケティングのSEE段階が可視化できるのが特徴だと述べた。すると、経営者の方々がメモを取り始めたではないか。「しめた、これはイケル。オンリーワン企業しか生き残れない現代では、独自発想こそが重要な武器なのだ。それを経営者の方々はわかっていらっしゃる。よしよし」。釣りで言うとアタリが来た、という感じだ。

 PLAN段階ではとにかくアイデアを出す人の頭に浮かんだことをどんどんキーワードに書き出してしまうことがアイデアを出すコツ。それらを5W1Hに分類すると、人に伝わるコンセプト(提案の要点)になる。これらの工程をある程度自動化できるフリーソフト「5W1H」(マイクロソフトと共同開発中)を紹介したが、受講者の多くはピンとこないようだった。発想を業務の中心にしていないからなのだろうか。

 ではこれは、ということで、最近流行の「マインドマップ発想法」を紹介してみた。これを使えば過去アイデアの記録、アイデア発展の経緯が把握できることを説明したのだ。すると、メモをとる人が増えてきた。大企業など組織力を生かしたグループ発想ノウハウには関心があるようである。

 アイデアがまとまったらお決まりのアクションプラン(業務進行表)とプロジェクト管理表(人事管理表)の作成である。けどここは割愛した。重要なのはSEE段階のマーケティング・ツールとしての使い方だからだ。

 なので、この段階まで考えてきたアイデアの反応を調べることができる方法があることを紹介した。アイデアを具体的な新製品とし、Web上でテスト販売するのである。そのWebサイトに対するアクセス・ログ解析結果をピボットダイヤグラム機能でリアルタイムにグラフ化し、目で確かめられるようにする。つまりは、可視化されたオンライン・テストマーケティングのツールである。これを使えば、カーナビみたいに今の経営状況が見えるようになる。

 我輩はダメ社長を25年ほどやっている。なぜ社長をやっているのかといえば、ビジネスゲームのプレーヤーでいたいからなのである。ルーチンワークなど処理業務はコンピュータにやってもらえるようになったけど、「何をしたいのか、ではどうすればいいのか、どう切り抜けるのか」といったアイデアは、人間が自分の力で生み出すしかない。その生身のアイデアを商品にするわけだ。それは売れるのだろうか。そこがゲームなのである。ある程度の予測はできるけど、本当のところがやってみないことにはわからない。とても不安だ。

 この不安な状況を私は勝手に、物理学者のエルヴィン・シュレディンガーが提唱した「シュレディンガーの猫」という思考実験にたとえている。ものの本によれば、「観測が状態を決定する」という概念であり、それを分かりやすく(?)たとえたものが「シュレディンガーの猫」らしい。この思考実験で、猫は箱の中に入っている。同時に、箱の中には「核分裂を起こす原子」と「核分裂の検出器」「検出器が作動すると毒ガスを発生する装置」が入っている。核分裂する原子はいつか核分裂し、検出器が動作して猫は死んでしまうのだが、それがいつ起こるのかは箱の外からでは分からない。

 この、箱を開ける前の原子は、量子力学では「分裂していない状態と分裂した状態が混ざった状態」ということになるらしい。猫でいえば、「生と死が混ざった状態」ということになるだろう。これを知ったとき、「あ、これって発売前の製品と同じだ」と思ったのである。製品が売れるか売れないかは、たぶん製品が出来上がった瞬間に決まっている。けれど、それは実際に売ってみるまでは確かめられず、発売前は「売れると売れないが混ざった状態」になっているのだ。そんな状態はとっとと解消したい。だったら開けてみればいい、それはダメということであれば、ちょっと隙間を広げて覗いてみたらいいではないか。そう考えるのである。それが、テスト・マーケティングだと思うのだ。カンニングは反則だけど、テスト・マーケティングは合法なわけだし。

 と、そんなことをぐだぐだとしゃべっていたら、あっという間に講演は終わった。心配だったのでアンケート結果を見せていただいたが、まあまあかなぁ。特に経営層、さらには技術主任などのポジションの方々から参考になったとの評価をいただいた。ありがとうございました。

 そんなことで胸をなで下ろしていたら、スタッフからこんな話を聞いてしまった。途中退出した業界記者から「新ソフトの発表会なのに新しくない(技術がない)。原稿ネタにならないわ」と言われたのだそうだ。まあ、テーマがテーマだから当然なんだけど、やっぱりヘコむ。

 そんなことでしょぼんとしていたら、米国のMicrosoft Corp.から来たスタッフが、にこやかに歩み寄ってきた。なんと「2月にシアトルに来ませんか?」と言うのだ。「うんうん、分かってくれたか、私の講演の重要性を。よかろう、米国でも中国でも、ご依頼とあれば赴いて話をしてやろう」。そう腹の中で決意した私に向かって、彼はこう言った。

 「スキーはやっぱり2月です。ぜひ遊びにいらしてください。カナダの雪は最高ですよ」

*講演会の様子はFlashにて公開しています
http://www.kubotatu.jp/

読者の方へ
この連載では“起業案100を書きなぐる”をマラソンしてみようと思います。
身の回りの体験をヒントに脳裏に浮かぶ起業空想ロマンを書きなぐりしてみようと思うのです。
「人気がないから今回まで」と編集担当者が言えばそれまでですが、インターネット時代だから続きは我輩のサイトで行う所存でございます。