コスト競争力を武器に収益の拡大を図ってきた中国企業。ところが,ここにきて利益率を下げている企業が目につくようになった。コスト競争力の限界からか,いよいよ中国企業も先進企業のように技術競争力を武器とした事業遂行が迫られているようである。

 果たして中国企業は今後も事業の優位性を継続していけるのか。レポート「中国ハイテク企業の技術競争力分析』では,米国市場において中国企業は先進企業と比較して技術競争力を有しているのかを特許分析の面から検証している。本稿ではそこから一部抜粋し,中国企業の技術競争力の一端を検証する。

 分析には,公開されている特許情報をもとにして,特許を保有する企業の技術的な競争力を測る指標であるPCI(Patent Competency Index)を利用する。PCIとは,SBIインテクストラが独自に開発したもので,各特許の注目度などを被引用数や情報提供数などのリアクション数により計測し,個々の特許の質を数値化した指標である。

中国企業の技術競争力はこれから

図1
●図1 中国国籍出願人による出願件数の推移。世界知的所有権機関(WIPO)の統計データに基づき作成。

 図1は,中国企業の特許出願件数の推移を表したもの。中国が世界貿易機関(WTO)に加盟する2000年ごろから中国国内への特許の出願件数が急増している。国内出願と海外出願の割合をみると,海外への出願割合はまだ少なく5%以下(日本の場合は約30%)となっている。

図2
●図2 出願人国籍別のPCT出願件数の推移。2006年の値は速報値。WIPOの統計データに基づき作成。

 図2は,国際特許出願(PCT出願)を国別に比較したもの。2006年の出願件数で8位の中国は,4位の韓国などとともに,伸びが顕著である。とはいっても,先進各国の企業と比較するとその数はまだ極めて少なく,また技術力向上の推進役である研究者数などを見ても,一部の中国企業で急速に人員増加を図っているが,先進企業に比較して絶対数としてはまだまだ少ないのが実情だ。

図3
●図3 中国国籍出願人の海外への出願先の分布。WIPOの統計データに基づき2005年出願分に関してまとめた。

 図3は,中国国籍の出願人がどの国に特許を出願しているのかをまとめたもの。米国向けの特許出願が半分以上という結果となった。さらには,米国向けの特許は各国向けに比べて大きな伸びを示しており,中国企業が米国市場に対して力を入れていることが分かる。

図4
●図4 中国主要企業11社の米国特許登録件数。1985年~2006年に出願された特許に関して独自でまとめた。

 図4は,米国においての特許登録件数を企業別に見たもの。ここで選んだ11社は,中国企業の中でもその戦略や技術動向から注目すべきと判断。特に焦点をあてた中国企業だ。Lenovoを筆頭にして特に上位3社の登録件数は多く,米国市場において技術的優位にたちたいという意欲が現れているのが分かる。一方で,特許を登録していない企業は4社もあり,いくら中国国内においては大手といっても,その国際戦略においては大きな差があることが確認できる。

 次に,米国における中国企業の技術力を,特に中国企業の躍進に目を見張るものがある携帯機器分野において分析してみる。日本では特に目立っていないが,携帯機器,特に携帯電話機市場においては,中国機器メーカーのシェアがOEMを含め各国で伸びている。日本の産業においても携帯機器は成長性のある戦略的製品であることから,中国企業の技術競争力は非常に注目に値する。

図5
●図5 携帯機器分野に絞った米国特許登録件数とPCIシェアの上位20社。1985年~2007年に出願された特許に関して独自でまとめた。

 図5は,携帯機器分野に絞って米国登録件数,およびPCIシェアの上位20社をピックアップしてまとめたもの。日本や欧米企業であり,中国企業は1社も登場してこなかった。

図6
●図6 各国の注目企業を携帯機器分野に絞った米国特許登録件数およびPCIシェアで比較。1985年~2006年に出願された特許に関して独自でまとめた。

 さらに図6は,携帯機器をはじめ家電やAV機器など総合的に競争力があると思われる各地域の企業をピックアップして,図5と同様に米国における登録件数,PCIシェアを比較した。日本の代表である松下電器産業,韓国の代表であるSamsungグループ,欧州の代表であるオランダPhillips社が500件以上の特許を登録しているのに対し,中国の代表としてピックアップしたHaier社,TCL社はわずかに2件だった。PCIシェアにおいても,同じように格差が生じている。

特許紛争の激化と解決方法の多様化の方向

 このように,米国において中国企業と先進企業の技術力の格差は大きいのだが,量的(特許件数)な格差よりも,質的な格差の方がインパクトが大きいだろう。中国の携帯機器メーカーが躍進しているといっても,その背景に堅固な技術力がまだ十分に備わっているわけではない。従って,特許を多く保有する日本企業などは,中国メーカーなどとの競争に打ち勝つため,高い技術力をフルに活用していくことや,特許権を行使して市場を守っていくといった手段を取るべきであろう。

 一方,これまで技術競争力に関する中国企業との紛争は,特許紛争として顕在化し,損害賠償と差し止めによって解決されてきた。しかし,先進企業と中国企業との技術力格差は従来型の特許紛争におけるものと比較ができないほどの差が生じている。今後も引き続き特許紛争が生じていくだろうが,中国企業は従来のように金銭にて解決する道を選ぶのだろうかというと,非常に疑問だ。技術開示と引き換えに中国での販売ネットワークを提供すると行った例があるように,中国企業の体力を鑑みるに,「特許vs.販売ネットワーク」,「特許vs.株式」,といった,特許だけではない会社経営を見据えた解決がなされていくのではないだろうかと予測する。


    今回の分析条件

    【分析対象】中国国籍企業全体を分析対象としている場合を除き,次の方法で分析対象を特定している。
    ■中国企業の特定:
    出願人=海爾(Haier),TCL,海信(Hisense),美的(Midea),京東方(BOE),上海広電(SVA),熊猫電子(Panda),聯想(Lenovo),華為技術(Huawei),北大方正(Founder),大唐電信(Datang Telecom)の何れかを含むもの。
    ただし,分析チャート内で更に出願人を特定している場合は,該当する出願人を分析対象としている。
    ■携帯機器関連技術の特定:
    ◎IPC=H01H(電気的スイッチ;継電器;セレクタ;非常保護装置)+H01M(化学的エネルギーを電気的エネルギーに直接変換するための方法または手段,例.電池)+H01P(導波管;導波管型の共振器,線路または他の装置)+H01Q(空中線)+H02J(電力給電または電力配電のための回路装置または方式;電気エネルギーを蓄積するための方式)+H03H(インビーダンス回路網;共振器)+H04B(伝送)+H04M(電話通信)+H04Q(選択)+H04R(スピーカ,マイクロホン,蓄音機ピックアップまたは類似の音響電気機械変換器;補聴器;パブリックアドレスシステム)+H05K(印刷回路;電気装置の箱体または構造的細部,電気部品の組立体の製造)
    および
    ◎発明の名称または要約または請求項=「Mobile」x「Phone」+「PDA」+「Personal Digital Assistance」のいずれかを含むもの。

    【本分析に利用したPCI指標】
    全分析対象特許に対し,「他社からの注目度を示すPCI指標項目」に100%のウェイト付けを行なって各特許のPCI値を算出した後,特許のステータスにより以下のパーセンテージをかけて算出した。
    登録特許:100%,審査請求済み特許:50%,公開済み特許:30%,消滅特許:0%


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