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デバイスと品質(前編)~より重視される信頼性確保への取り組み

2007/11/15 09:00
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 昨今,社会をゆるがす事件・事故の件数が著しく増大し,メディアをにぎわせているのは,周知の通りである。とりわけ,情報通信ネットワークをはじめとした各種システムの障害に起因する場合には,公共施設や交通,輸送,流通,金融などの社会・産業などへの波及効果が大きく,各種産業に大きな損害を与えたり,国民の日常生活にも大きな影響を及ぼす。

 これらの障害は,ソフトウエアの不具合によるもののほか,システムを構成する電子機器,もっと言えば,電子機器に搭載されているさまざまなデバイスの故障・劣化によることが少なくない。そこで今回から2回に渡って,半導体薄膜といった材料から作製されるデバイスの品質,特にその信頼性に焦点をあてて解説をしていく。

デバイスの定義

 デバイスの品質を論じる前に,まず対象とするデバイスの定義をしておきたい。一般的にはデバイスと一言で言うと,いわゆる半導体と呼ばれるもの全体を指すことが多い。すなわち,シリコンや砒化ガリウム(GaAs)などの半導体基板やその上に積層した薄膜を材料として,各種微細加工を施し,多様な機能・性能を有する「素子」の総称である。大規模集積回路(ULSI)のように,素子を超高密度に配置したものもある。

 デバイスの形態としては,上記の各種プロセスを施した基板から,適宜へき開などにより切り出したチップ状をしている。大きさは,半導体レーザのように0.3mm角と小さいものから,ULSIなどのように数10mm角に及ぶものまで幅広い。実際に使用するに当たっては,これらのチップを熱放散の良い土台(ヒートシンクと呼ばれる)にマウントおよび電気接続(ダイボンディングおよびワイヤボンディング),その後で外部環境の影響による湿気や酸化を回避するために,パッケージに窒素ガスなどと共に機密封止(窒素ガスなど)する。1つのパッケージに複数のチップを搭載している場合もある。

 本稿では,これらの半導体チップやパッケージングされたものをデバイスということにする。一方では,デバイスや単体の抵抗,コンデンサなどの回路部品をいくつか小型のプリント基板上に実装したもの(例えば通信用光モジュール)や,チップ内にメカ部品や光部品などを組み込んだセンサもデバイス(センサデバイス)と呼ぶことがあるが,今回は対象外とする。

より重要視されるデバイスの品質

 デバイスにとって品質とは何かということについて考えてみる。一口に品質といっても,いろいろな見方がある。「“プロダクト”が顧客満足度を最大限に獲得できる属性」の中でも,品質は重要なものだと捉えることができる。ところがデバイスではまず,「性能」が最も重要な属性であると考えがちだ。具体的には,信号を高速で大量に送れたり,大きな出力が提供できたり,極めて低い消費電力で動作したり,といったことだ。また,同時に複数の信号を処理できたり,論理演算と情報の記憶が平行してできたり,光信号と電気信号の処理が同一チップで実現できたりといった「機能」も重要な属性とされる。

 そこで,デバイスメーカーはこうした性能や機能を高めた,顧客ニーズに適合したプロダクトを短い期間で開発。その上で,それらを大量に,安定に,かつ高歩留りに生産・供給することに専念する。ここで忘れてはならない重要な点は,高性能で高機能なデバイスが長期間にわたって安定に動作することである。たとえば,せっかくの高性能なデバイスがたった一日しか動作しないとしたらどうであろうか。当然ながら,すぐに市場から排除されてしまうであろうし,顧客も離れていってしまうであろう。

 極端な例を示したが,こうしたデバイスの「信頼性」に関しては,これまでさほど重要視されていないものも少なくなかったと思われる。顧客側から見ると,デバイスのコストには信頼性(寿命)のコストが,意識の範囲外に置かれているように思われるのだ。そこそこ(たとえば5年程度)動作すれば良い,といった意識なのかもしれない。

 しかし,市場でデバイスの不具合によるシステムの障害が多発するのを見る限り,デバイスのコストを(性能)x(機能)で評価すべきではなくなっている。すなわち(性能)x(機能)x(信頼性)という認識を持つことが,必要な時代に入ってきているのだ。

 以下にはデバイスの信頼性について,発光デバイスを例にとって現状と課題について述べる。発光デバイスは,ULSIに用いられるSiに比べ,材料的に弱い(やわらかい,もろい,熱に弱い,欠陥が多いなど)化合物半導体材料から作製される上に,通電時の電流密度も高いので,Si-LSIに比べ,ややデバイスの信頼性に不安がある。このため,長期信頼性の確保への対策がデバイス開発上最重要項目の一つであるからだ。

発光デバイスの主な用途と信頼性

 発光デバイスには,半導体レーザ(LD:Laser Diode)と発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)がある。半導体レーザは,高出力,高周波動作が可能で,基幹通信システムをはじめとした各種光通信システム,オーディオ,ビデオ,プリンタなどの電子機器の光源,さらには医療や溶接などの分野に用いられている。一方,LEDは,さまざまな製品・システムにおける各種表示部品として用いられる一方,各種ディスプレイや携帯電話などのモバイル製品などの光源,さらには,照明用光源としても用いられるようになっている。

 デバイスの信頼度の尺度としては,寿命や故障率が用いられる。最も一般的なのは,デバイスの使用条件(たとえば半導体レーザでは,環境温度60℃,50mW定出力動作など)においての平均寿命(MTTF,単位時間)で表わすことだ。寿命が長く,低い温度での通電試験では何年もかかる場合には,高温(80~160℃)での通電試験による寿命値を数点求めて,温度プロット(アレニウスプロットと呼ばれる)をとり,使用温度に外挿して求めることが多い。

 また,故障率(FIT:Failure in Term)という単位も用いられる。これは,以下の式で表わされる。

   FIT=[故障素子/(全素子数x稼働時間)]×109

たとえば,100FITといえば,1年間連続で通電した場合に,約0.09%の割合で故障が発生することに相当する。

 発光デバイスに要求される信頼性は,個々のケースにより大きく異なる。最も信頼度を要求される基幹通信システムに用いられる半導体レーザ場合には,寿命で,10~20年,故障率で,1~10FITである。また,各種中・近距離LANなどに用いられる場合には,寿命としては10年程度,故障率で500~1500FIT程度とされている。一方,各種民生機器に用いられる低価格の半導体レーザやLEDでは,保証寿命は数年~10年程度と用途やメーカーによりバラつきがある。

発光デバイスの開発史

 発光デバイスは,これまでどのように信頼性を高めてきたのだろうか。その開発と信頼性研究の歴史を振り返ってみよう(図1)。発光デバイスの中でも,まずLEDの開発が1960年代に始まり,そして1969年にGaAsP,GaP系のLEDが米国において実用化された。その後1982年には,スタンレー電気から高輝度の赤のAlGaAs LEDや緑色LEDの量産が開始された。そして,残された光の3原色の1つである青色LEDのニーズが高まり,1993年に青色LEDが日亜化学から初めて製品化された。その後,1996年には,赤青緑の3原色を組み合わせた白色LEDも各種照明用に量産され,現在に至っている。


図1●発光デバイスの開発と信頼性(劣化)研究の変遷 (画像のクリックで拡大)

 半導体レーザに関しては,1970年にAlGaAs/GaAs DH(ダブルヘテロ構造)レーザの連続発振がAT&Tベル研他のグループにより確認され,1970年代後半には0.8μm帯通信用光源として実用化された。また,1980年代に入ると,1.3μm帯のInGaAsP/InP DHレーザが開発された。幸いにもこの材料系のレーザは寿命が長く,その後,多重量子井戸レーザ,分布帰還型レーザなどの登場により,高出力化,高機能化が進展し,現在に至っており,多様な通信システムに使用されている。

 可視光レーザとしては,プリンタ,オーディオ用光源としてのニーズに応えるため,1980年代半ばにAlGaAs DHレーザが,760nmまでの波長域(赤色)で製品化された。しかし,短波長化に伴う寿命低下の問題があり,その後,より短波長でも比較的長寿命InGaP/InAlGaP系のレーザに取って代わられた。1990年代には,青色レーザの開発が活発化し,まず,ZnSe系のDHレーザの開発が進んだが,欠陥に起因する劣化の問題で実用化が困難な状況となった。これに代わって,1990年代半ばから,InGaN/GaN系のDHレーザが急速に進展し,活性層に転位などの欠陥が存在するものの長寿命の素子が得られ,2000年代に入り,青や青緑の多様なレーザが実用化されてきている。

発光デバイスの信頼性研究の変遷

 信頼性の研究は,筆者も携わった1974年からの日本電信電話公社(現在のNTTグループ)と富士通,さらには日本電信電話公社とNECの2つのグループによる,光通信用半導体レーザの長寿命化に関する共同研究プロジェクトにおいて,10数年にわたり精力的に行われた。劣化素子の分析・解析により,劣化メカニズムに関する研究が著しく進展した。

 学会においてもデバイスメーカーを中心に多くの論文が発表され,活発な議論がなされた。この結果,さまざまな劣化モードに関して,基本的なメカニズムが解明された。それらに基づいて対策が講じられ,InGaAsP/InP DHレーザを中心に長寿命化が実現された。しかし,当時の解析技術の限界もあり,原子レベルでの詳細な現象解明には至っていない。そういう意味で,この時代(1970-1985)の劣化研究を「古典的な劣化研究」と呼ぶことにする。

 その後,III-V族化合物半導体材料系の発光デバイスの劣化の研究は,注目すべきいくつかの発表はあるものの全体的には不活発になり,現在に至っている。一方,1990年代前半に,既に述べたII-VI族ZnSe系青色レーザの信頼性が大問題となり,III-V族との対比において盛んに研究された。また,1980年代から研究が行われていたAlGaAs系VCSEL(面発光レーザ)がようやく1990年代になって実用化されたが,AlGaAs系ゆえの劣化の問題が頻出し,現在も多くの課題がある。InGaN系青色レーザも高い信頼性を誇ってはいるが,ごく最近になって,いくつかの劣化解析結果が報告されるようになり,少しずつ劣化メカニズムが解明されつつある。今後,新しい構造のレーザ,たとえば,量子ドットレーザなどが実用化される日も近いが,その信頼性も気になるところである。

 次回の後編では,発光デバイスに関する信頼性の現状や課題を明らかにするとともに,信頼性向上に向けた取り組みなどを紹介する。

著者紹介

上田 修(うえだ おさむ)
金沢工業大学高信頼ものづくり専攻専任教授(デバイスの信頼性評価担当)
富士通研究所 材料環境技術研究所主席研究員,基盤技術研究所主席研究員を経て,2005年より金沢工業大学大学院工学研究科教授。2006年よりものづくり研究所東京分室長を兼務。
通信用半導体レーザ開発の黎明期である1970年代半ばより,その劣化メカニズムの研究や半導体薄膜材料・界面の種々の格子欠陥の電子顕微鏡による微細構造評価に携わってきた。発光デバイスの信頼性研究を集大成した著書,”Reliability and Degradation of III-V Optical Devices”,Artech House Publishers, Boston/London,1996は,現在も発光デバイスの研究開発者に座右の書として好評を博している。現在も,本専攻での研究・教育や企業との委託研究,共同研究,技術コンサルティングの場において,企業のデバイス信頼性評価・解析に携わる研究開発者のキャリアアップのための人材養成に当たっている(http://www.kanazawa-it.ac.jp/tokyo/mono/index.html)。2004-2005年応用物理分野の英文誌Japanese Journal of Applied Physicsの編集委員長。2007年より応用物理学会フェロー。

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