速い車と言えば、まず思いつくのがF1などのレーシングカーでしょう。それに連なってフェラーリやポルシェといった欧州の名車が浮かびます。サーキットで鍛え上げられた最先端技術が数千万円クラスの超高級市販車に落とされてくるという構造で、ハイブランドを維持し続けています。

 一方、現在世界最強の戦車といえば「M1A2エイブラムス」というアメリカ陸軍の正式戦車でしょうか。湾岸戦争やイラク戦争で得られた実戦データをたっぷりフィードバックして、運用ノウハウも含めて最強と言われています。けれど、それをまさか「自家用車」として乗り回すわけにはいかないでしょう。現実解として思い浮かぶのはジープとかハマーなどのアメ車。いずれも軍用車をベースにした市販車として販売されています。欧州やアメリカで、モテる男たちが乗りたそうな車といえばこれらの直球な事例がしっくりきます。日本ではちょっと「濃すぎ」かもしれませんが。

 速さや強さへの憧れは、男の子の本能ともいえるものだと思います。映画などをみても、米国ではそれをストレートに誇示する天真爛漫さがあるように感じます。大人の会話の中にさりげなく「お前ベンチプレス何キロあげられる?」などという話が入ってくるお国柄ですから(日経ビジネスオンラインの関連記事)。

 欧州はさすがに老練で、その牙をエレガンスの衣で巧妙に覆い隠すセンスが感じられます。しかし、優雅なレーシングカーも一皮剥けば、900馬力の咆哮が聞こえてくるのです。それがあるからこそのエロチックなのでしょう。分かりやすい強さか、チラリズムの強さか。その違いというわけです。

 これらに共通する点は、「勝つ」ための車ということです。戦いに勝つ、競走に勝つ、とにかく何らかの競合者に対して勝つという観念が後ろに隠れています。そういったものを欧米風の男らしい車だとすると、日本のものづくり哲学が見えてきますね。「勝たない」車づくりなのです。

 東京モーターショーでのトヨタ自動車のコンセプトカー「i-REAL」はそれを体現したような一人乗り電気自動車でした(Tech-On!の関連記事)。巷ではエコロジーという軸で解釈されていますが、視点を変えると乳母車や車いすの発展形としてもとらえられます。つまり、乳幼児や障害者、老人や病人といった人たちが活動範囲を広げるための車両です。既に車いすの中にはモーター駆動の「自動車」もあるわけで、今回のi-REALは、今の自動車の延長線上に位置付けるよりは、いわゆる社会的弱者を助ける車の子孫とした方がしっくりくるような気がします。いわば「勝たない」を通り越して、困っている人を救うための道具です。


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