自動車が、強い男のためのセックスアピールの道具としての機能を失い始めているのではないかという話を前回いたしました。読者の皆さんからはたくさんのご批評、ご意見を頂戴しました。ありがとうございました。

 日本人にとっての自動車というものは、欧米に比べると歴史の浅い道具です。使いこなしとか洗練という視点でいえば向こうのほうがずっと先輩なわけで、車とのお付き合いの「こなれ方」は先を行っているはず。この傍証を「道」に見出し、「ローマ街道のころから舗装された馬車道があった欧州、文明開化まで歩道以外を知らなかった日本」という説明をする人までいるくらいです。

 にもかかわらず、日本でのみAT車やカーナビというような操縦の自動化機能が圧倒的に先行して普及しているという事実が厳然としてあるのです。ある面では、あまたの先輩たちを追い越した先取りの現象といえるでしょう。「豊かになってほかにもいろいろ楽しみができた。もちろん車にも慣れてきた。だから、こんなもんでいいじゃないの?」と軽く流してしまいそうなことではありますが、そこをあえて「何かチャンスが潜んでいないか」とビジネスマンらしくカラクリを考えてみるのも意味のないことではないだろうと思うのです。

 生まれたときから既に家に車があった世代にとっては、車に「人や物を運ぶ」以外の価値を期待しないのは当たり前のように感じるかもしれませんが、海外の先輩諸国を圧倒するこの逆転現象が相変わらず説明できません。この一見当たり前のような空気そのものが世界的には極めてユニークであるということであって、「そんなの普通じゃん」風に見過ごすべきことではないと考えています。

 関係者に話をうかがってみると、日本の車づくりが、世界の中であるいは歴史的な時間軸の中で変な方向に曲がり始めているのではと感じている方が、少なくないようです。変な方向というと語弊がありますね、独自の方向性と言うべきでしょう。


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 先般の東京モーターショーに出展されていた未来カーでいえば、日産自動車のコンセプトカー「ピボ2(PIVO 2)」などは今時の日本の空気を強く感じさせるものでした(Tech-On!のピボ2についての記事,写真はこの記事から引用,)。車輪が四輪同時に直角に曲がるので縦列駐車で恥をかく心配は限りなくゼロに近づきました。バックの際にも座席全体が回転して後ろを向きます。さらにはカーナビが進化して擬人化されたロボット風になっています。ナビゲーター(航法士)と言うよりは副操縦士に近いイメージです。まだあどけない表情をしていますが、成長し続けて、いずれはメインパイロットの座も狙おうかという気配です。

 話題の新型GT-Rの対極にあるピボ2。ここにはもはや、男らしさを演出するための道具などという風情はひとかけらも残っていません。ここでも印象深いのは、海外と比べてAT化やナビ化への意欲が突出している我が国の独自性です。


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 この国に生まれ育った我々には、その彼我の違いを感じる機会はあまりありません。けれど、その事情をよく知る人から「海外とは違うね」と言われると、ちょっと不安になってしまう。それだけで終わらず、「それってもしかして日本の弱みなのか?反省しなくては」などと思ったりもしがちです。ですが、私はそうは思いません。これこそ明らかに、日本の強みだと信じているのです。

 セックスアピールしない車づくりとは一体何を意味しているのでしょうか。ちょっと難しいので逆に、「男らしい車」というものを考えて見ましょう。小中学校の男の子が熱中する車、プラモデルとかで作りそうな車を考えると、それらしい答えが見えてきます。すなわち、それは二種類。一つはレーシングカー系で、いまひとつは戦車系でしょう。前者は「速い車」であり後者は「強い車」の究極形を意味しています。

 速い車と言えば、まず思いつくのが…(次のページへ