先週の10月24日,FPD(フラットパネル・ディスプレイ)関連の展示会「FPD International」が開催された。このところ,FPD産業は「収益率が低下してきた」「成長性に陰りが見える」「2010年以降のテレビの次の大型アプリケーションが見つかっていない」といった将来性を疑問視する声が聞かれるようになってきた。しかし,当展示会に参加して,FPD産業にかかわる多くの方々が2010年以降の成長エンジンとなる新しいアプリケーションを開発しようという強い意志を感じた。特に象徴的だったのが,韓国Samsung Electronics Co., Ltd.のPresident & CEO, LCD BusinessのSang-Wan Lee氏による基調講演である(Tech-On!の関連記事1)。

 Lee氏は,FPD産業はこれまでノート・パソコン,デスクトップ用モニター,テレビという三つの用途を中心に成長してきたが,これらはCRT(ブラウン管)を置き換えてきた「第一ラウンド」だとした。これに対して,2010年以降の「第二ラウンド」では,CRTの置き換えではない新たな用途を開拓する必要があると語った。その際には,新たな価値を生み出す必要があるという意味で,「Value Creation」をテーマにすべきだとした。「第二ラウンド」に向けて,FPD業界が協力して新しい用途開拓に邁進すべきだと,力強く宣言した格好である。

「温故知新」

 「第二ラウンド」という新しいフェーズに入るとしながらも,Lee氏は講演で,「温故知新」という四つの文字をスライドで大きく掲げ,過去の体験に学ぶ姿勢を強調した。同氏はこれまでの15年のFPDビジネスを担当してきた経験から分かったという四つの教訓について語った。

【図1】Samsung Electronics社ブースのブティックをイメージした展示。右脇のアイコンを意味もわからずに触っていたら,なんと下着姿になってしまった…
【図1】Samsung Electronics社ブースのブティックをイメージした展示。右脇のアイコンを意味もわからずに触っていたら,なんと下着姿になってしまった… (画像のクリックで拡大)

 その四つの教訓とは,(1)革新的な製品というものは予想を超えて,新しい市場を生み出すということ,(2)FPDは単純なデバイスではなく,人間のライフスタイルを変化させるデバイスだということ,(3)技術革新が成長の原動力であるということ,(4)FPD産業の健全な発展と成長のためには,バリューチェーンの各部門,パネルメーカー,素材,部品,設備,流通がそれぞれ健全な利益を出せるような産業構造とすること---である。

 筆者が中でも考えさせられたのは,第二の「FPDは人間のライフスタイルを変える可能性のあるデバイスだ」という指摘である。同氏はさらに「(FPDは)デバイスという枠を越えて新しいライフスタイルを実現し,人間の生活を豊かにする」ものだと強調した。

単なるデバイスでない「何か」

 単なる「デバイス」でなく,人間の生活を変えるデバイス---。その「二つのデバイス」の違いとは何だろうか…などと考えていると,同氏は人間のライフスタイルを変える一例として,「服を実際に試着しなくても服を選べるブティック」を挙げ,展示会のSamsung Electronicsブースでデモンストレーションしていると語った。

【図2】女性説明員の「指導」で無事服を着せることができた
【図2】女性説明員の「指導」で無事服を着せることができた (画像のクリックで拡大)

 そこで,基調講演が終わった後に同社のブースに寄ってみた。縦長のディスプレイに等身大の女性が映っており,来場者がディスプレイに触って操作している。筆者もさっそく操作してみた。右端になにやらアイコンが並んでいるので,押しているうちになんと,下着姿になってしまった(図1)。少し焦って服を着せようとしていると,女性の説明員の方が笑いながら寄ってきていろいろと教えてくれた(図2)。

 決められたアイコンに触ると,さまざまな服のリストが出現し,そこから気に入った服を選ぶと瞬時にそれを着た像が現れる。指2本を画面につけて上に動かすと像が大きく,下に動かすと小さくなる(図3)。指を左から右に動かすとその方向に像が回転する。説明員の方に「この像はあなた自身なのですか?」と聞いてみると,「いやいや,たまたまこの像は標準的なモデルですが,実際には利用者は自分の体をスキャナーなどで取り込んでモデル化するのですよ」との答えであった。自分の像がディスプレイに映り,それに多種多様な服を一瞬のうちに試着させることができ,しかも自分でありとあらゆる方向から確認できるという趣向である。

 「これが第二ラウンドの用途なのだろうか」と思いながら画面をいろいろと触っていて一つ思ったのは,画面を触ることによる遊び心のようなものを刺激するのではないか,ということである。

「五感に訴えるデバイス」

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