日曜日の昼下がり、自宅の風呂場付近から妻の絶叫が聞こえてきた。さすがに青ざめた彼女が言うには、私の携帯電話機を洗濯してしまったのだという。どうやらそれがポケットに入っていたのに私が気付かず,妻も気付かず、ズボンを洗濯機に投入してしまったらしい。ケータイが洗濯機に入るのを拒否してくれるわけもなく、洗濯、すすぎ、脱水のフルコースを浴びせてしまったのだ。

 思わず凍りついてしまった。ケータイ本体はまあ仕方がない。問題なのは電話帳である。これがすべて消えてしまったら、実生活はともかく、仕事の上では極めて困ったことになるのは明白だ。バックアップなど、当然とっていないし。

 凍っている場合ではない。すぐにパソコンに飛びつき、Googleで「ケータイ 水没」などのワードを入れて検索してみる。すると、あるわあるわ、事故報告や解決案の投稿を求める悲痛な叫びなどがいくらでも出てくる。

 スゲー、やっぱみんな同じ経験をしているんだ、などと安心している場合ではない。ベストの解決案を探さなければならないのだ。けれど、どのサイトをみても「即死」「少なくともメモリの復活は期待薄」といった悲惨な報告ばかり。中には「必ず復活させます」といった業者の案内もある。キンキンギラギラのインチキくさいサイトなんかもあって、ちょっとたじろぐ。値段を見て一層たじろぐ。

知識を総動員

 イヤー、目ざとく商機を見つけて商売しているなぁ、とか再び感心している…場合ではない。何とかヒントを探さねばということで、「こうして復活させた」という案件を探してみる。「ドライヤーでひたすら乾かす」という愚直案から「生米の中に埋める」といったあやしげな民間療法的推奨案まで無数にある。けど、どれが正しいのかさっぱりわからない。

 結局、ネットは多数の案を提示してくれるだけで、どれを採用するかを決めるのは自分でしかない。そんな当たり前のことを思いつつ、読み進んでいく。すると、ヒントになりそうなものがあった。「3日も陰干しすれば復活すると言われてやったけどダメだった。けど1週間以上放置していたら復活していた」という事故報告である。そうだ。電子機器は水に弱いとはいうけど、それは動作させているときのこと。当然、高温高湿試験なども経ているはずだから、非動作時に水がかかったくらいでは死ぬはずはない。水に濡れた状態で動作させず、水分を完全に抜けば必ず復活するはずだ!

 そういきり立ってはみたけれど、1週間ものんびり放置しておくわけにはいかない。そこで思いついたのが、電機メーカーの研究所勤務時代によくやっていた「置換法」の適用である。水と混じりあい、かつ水より沸点の低い有機溶媒などで、水を置換するのである。

 この用途で、昔よく使っていたのはアセトンだった。けれど、近所の薬局で手に入るのかという不安があるし、筐体などのプラスチック部品に悪影響を与える恐れもある。結局、これしかないだろうということで目星を付けたのが、アルコールである。

 早速、「ケータイ 水没 アルコール」などのワードで検索をかけてみる…(次ページへ