朝刊の社会面の下欄をご覧になっているだろうか。このところ,毎日,欠陥商品に対してのお詫びの公告が掲載されている。ひどい時には数社の公告が並んでいる。時には社会面のニュースそのものに取り上げられることもあるし,大騒ぎになると1面に頭を下げる社長様の写真が掲載されている。

 世間から指弾されるのは社長様だが,社内ではいかがだろう。技術者はコストと納期に加えて,品質に関する締め付けが厳しい昨今だろう。品質,品質の大合唱。そして,もし大量のリコールでも出せば,責任をとらされるのは技術者だろう。しかし,努力すれば欠陥の無い商品は作れるのだろうか。

 国土交通省のHPによると,平成18年度に国内に届け出された自動車のリコール台数は約700万台である。平成17年度は560万台,平成16年度は750万台である。それに対して,平成14年度以前は350万台弱である。ちなみに,自動車販売台数は平成元年前後のバブル期で800万台程度。最近は低迷し600万台を下回っている。つまり,平成18年度と平成16年度は販売するよりもリコールした車の台数の方が100万台以上上回っていたことになる。

 これには,リコール隠しが社会的な批判を受けたために,できるだけ正直に欠陥情報を提供し始めたという要因がある。しかし,それは最近の統計が自動車業界の実態を表していることの裏打ちでしかない。そして,リコールが販売台数を上回っている現状は,もう誰も欠陥が無い自動車を作れないという事実の裏打ちである。

 最近の自動車は数万点に及ぶ部品から構成されている。電子制御満載の高級車となると100個を越えるマイコンと,それ以上のモータやセンサがCANなどの車載LANで結合されている。もはや,設計技術者も,生産技術者も全体像は把握できていない。もちろん,テストドライバーも,販売員も,メカニックも承知していない。皆,自分の担当部分しか見ていない。もっとも,担当部分さえちゃんと把握しているか疑問である。

 実は,ソフトウエアに限っても人間の限界を越えている。高級車が搭載しているソフトはC言語で1000万行に迫っている。これは,携帯電話のソフト量と同じぐらいであり,Windows XPの四分の一の量である。誰もWindowsを欠陥の無いソフトだとは思わない。

 既にWindowsと携帯電話は欠陥を積極的に認める方向にビジネスを進めている。もっとも,最初に欠陥が無い製品を放棄したのはマイコンメーカーである。1億個を越えるトランジスタを集積して無欠陥では済まされない。実際,発売すればバグが多数出てくる。半導体メーカーはバグレポートを公開するという形で,責任回避を行っている。

 バグのある半導体上で動作するOSもバグからは逃れられない。さらに製品自体も複雑だが,購入したお客さまがどのように使われるか予想が付かない。携帯電話や家電のマニュアルには使い方の禁止事項が列挙されているが,これは責任逃れのための,メーカーのアリバイ工作でもある。

 さて,欠陥のない製品を作れないということを認めるとは,欠陥のある製品に対し対策を行うということである。半導体メーカーのバグレポートは,その一つである。WindowsはMicrosoft Updateを月に1回行っている。これは,OSやOffice製品のバグの修正である。携帯電話もリモートアップデートの仕組みを取り入れている。お店まで出向かなくても,ソフトのバグを手元で修正できる仕組みである。もちろん,リコールも商品に欠陥があることを前提とした対策の一つである。

 欠陥があることを直に認めることで,バグレポートを始め各種の対策がシステム化できる。それは外部に対する対策だけでなく,設計や生産の過程における対策も含んでいる。欠陥はある。それをできるだけ前工程で炙り出すことが大事である。そして,見つけられなかった欠陥は直に謝り,欠陥を修正すべきである。欠陥の原因を人に押し付けてはいけない。商品の欠陥は会社のシステムの欠陥である。欠陥がないことを頑なに言い張ること,または欠陥の原因を技術者個人に矮小化することは欠陥隠しであり,経営陣に欠陥があることを裏打ちしている。

 どうだろう,技術者の皆様,貴方の作っている商品に欠陥はないと言い切れますか? 言い切れなければ,対策を立てなければいけません。欠陥を出すことより,対策を立てないことの方が格段に罪は重いと思います。