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HOMEスキルアップマネジメント神足裕司の「それは違うゼ」 > 裏金と裏金と裏金

神足裕司の「それは違うゼ」

裏金と裏金と裏金

  • 神足裕司
  • 2007/03/15 00:43
  • 1/1ページ

 裏金という言葉を聞かない日がない。大流行りである。昨年は、ドミノのように地方自治体の談合、県知事逮捕が続いて、ついには税金をごまかして蓄財した「裏金」の存在まで明らかになった。今年1月1日から全国紙がしきりと訴えているのは閣僚の「裏金」で、松岡農相は1本5000円のミネラルウォーターを飲んでいるとか。まあ、政治と金の話は毎度の事だが。で、近々には西武球団から選手に渡った裏金、「栄養費」が話題になっている。

 これらの裏金はみな同じ裏金だろうか?

 「裏」とは「表」に出せないという意味だが、表に出せない事情が違う。もっとも巧妙なのは、国交省の職員自らが先頭に立った官製談合だろう。この見返りに官僚たちが受け取る「裏金」は「天下り」。だから、その金は表に出しても、多額の退職金としか見えない。よく考えたものではある。

 それに比べると野球選手がもらった裏金は、ずいぶんあからさまで、しかも額が小さい。東京ガスの木村雄太投手(21)が高校時代から東京ガスに入社した2004年9月までもらっていたのは、月々30万円。計270万円だ。温泉の宿泊施設で働き一家を支えていた母は、その裏金が終わった翌月亡くなったという。

 同じ04年8月、明治大学一場靖弘投手に、巨人、阪神、横浜の3球団が多額の「栄養費」を渡していたと発覚したとき、その用語の古くささに驚いた。野球関係者は「裏金」と言わないことで、うしろめたさを「臭い消し」していたのだろう。栄養費という言葉の陰には、戦後の食糧難の時代にプロがアマを支えたという、野球人の美談が見え隠れする。しかし「栄養費なんだから」という言い訳は通じず、3オーナーが辞任する。

 こうした、オーナーの辞任につながるほどの不祥事だけに、「信じられない」と言う他球団の声が聞こえた。たが、ここは微妙だ。一場問題が発覚した。だから、東京ガスは西武に裏金を停止するよう申し入れたのだという。当時、木村投手の初任給は20万円ほど。もし、その前年に「公正に」ドラフトを受け入れ、1巡指名を確約していた広島カープに入団していれば、ある程度の契約金を母に渡す事ができたはずなのに。

 もう一人、1000万円を受け取った早大野手は、父親が進学の学費について西武に相談したのだという。ところが、これも一場問題が発覚して、残金500万円を一括払いして清算しようという話になった。悪いは悪いにしても、彼らなりにぎりぎりの納め方を模索した結果だということになる。けれと、それも発覚した。早大選手の父がスポーツ紙に「怒りをこめて」語ったところによれば、西武側は「(裏金を渡したような選手は)採用できなくなった。こちらの契約不履行だから、金は返さなくていい」と言ったという。

 一場事件のときに、「私たちもやっていました」と名乗り出るのがもっとも「美しい」選択だったろう。しかし当時は、世論の反発が激しかったから、あるいは一場選手のように復活できず、木村投手と早大選手はそこで野球人生の終わり、ということになった可能性がある。二人ともたまたま野球の才能に恵まれていたが、家は貧しかった。その二人の将来をわずかなカネで摘みとってしまっていいのかと、当の西武も迷ったことは想像に難くない。

 私には、松岡農相の水道費と貧しい高校球児がもらう栄養費が、同じ「裏金」だとはどうしても考えられない。将来ある選手が、裏金で少し救われるなら、これがそんなに悪い事かと思うのだ。すべてを「裏金」と呼ぶから間違いが起きる。

 一場問題の翌年、プロ野球界は「倫理行動宣言」を採択した。それとは別に、アマ球界には野球憲章がある。選手の取り合いをするアマとプロは表向き仲が悪く、裏で手を握り合う「あいまい」な関係を続けている。その内情はともかく、ルールはルールなのだから、スポーツマンたるもの守るべきだろう。

 だが、スポーツの世界では、「あいまいなことが美しい」ということもある。サッカーの試合などを見ていればわかるだろう。そもそも、どこからが反則なのかがあいまいだ。それを決めるのは審判なのだが、見られていなければそもそも反則にはならない。現に、審判の見ていないところでうまく反則をすることが、「選手の高い技能」「見えないファインプレー」などと賞賛されたりもするわけなのだ。

【注】このコンテンツは、以前に日経ベンチャー経営者クラブのサイトで「美しくて、あいまいな日本」というコラムの記事として公開されていたもので、Tech-On!に再掲いたしました。

著者紹介

神足裕司(こうたり・ゆうじ)
1957年広島生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒。筒井康隆と大宅壮一と梶山季之と阿佐田哲也と遠藤周作と野坂昭如と開高健と石原裕次郎を慕い、途中から徳大寺有恒と魯山人もすることに。学生時代から執筆活動をはじめ、コピーライターやトップ屋や自動車評論家や料理評論家や流行語評論家や俳優までやってみた結果、わけのわからないことに。著書に『金魂巻』『恨ミシュラン』あり。

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