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「産む機械」発言と「機械の花嫁」

神足裕司
2007/02/06 00:34
1/1ページ

 柳沢伯夫厚労相の「産む機械」発言を聞いて、M・マクルーハンの名著『機械の花嫁』を連想した。彼ならこう言うだろう。「文明の発達はメディアとなって、人の生き方を変える。だから、女性は文明に目を塞ぎ、機械となって子づくりに邁進して欲しい…」。

 よけい悪いか。

 しかし、少子化対策と言うなら、なぜマクルーハンに学ばないのかと、ちょっと思う。すなわち、メディアにもっと目を向けなさい、ということだ。

 女性の結婚観はベストセラーによく現れている。松原惇子は『クロワッサン症候群』(1988)でメディアにダマされたと恨んだ。谷村志穂は『結婚しないかもしれない症候群』(1992)はなんかヘンと言った。しかし、林真理子が『花より結婚きびだんご』と本当の事を言ったのは早くも1984年のことだ。

 みな結婚を価値あるものとして描き、支持されている。しかし国は、というかこの社会はどうにもしてくれないので、酒井順子は『負け犬の遠吠え』を書き、「30代、非婚、子なし」女性たちを慰めた。ひりひりしながら、結婚、出産以外の生き方を納得する道を選んだのである。

 そもそも「少子化」は、日本の政策だったと私は野田聖子議員から教わった。戦争で多くの大人たちが亡くなったが、戦後、ものすごい勢いで出生率が高まり、子供たちは教室もなく青空教室で勉強することになった。大人は減り、子供が急速に増えたのだ。だから、「家族計画」なる言葉を標語とし、出産を抑制しようとした。

 本当に、そんなことに効果があったかどうかは知らない。しかし、89年には「1.57ショック」と言われる事態が発生する。合計特殊出生率が丙午(ひのえうま)である66年の1.58を下回ったのだ。出生率は落ちず、団塊ジュニアが適齢期を迎えれば再び子供の人口は増加すると踏んでいた政府は慌てた。ほんとうに慌ててくれたかは疑問だが。

 で、対策のようなものを打ち出した。94年には「エンゼルプラン」、99年には「新エンゼルプラン」、2002年には「少子化対策プラスワン」、そして去年「新しい少子化対策」。で、安倍総理が「子どもは国の宝です。安心して結婚し、子どもを産み育てることができる日本にしていかなければなりません」と打ち出した対策は、児童手当や育児休業給付など、経済的支援が中心だったのを「働き方の改革」や「地域・家族の再生」など総合的な政策に方針転換することだった。

 しかし、考えてみて欲しい。何の経済支援がなくても働く女性たちは、ホストクラブへ行ってポンポンシャンパンを抜くではないか。「支援されている地域のある」地方からイイ男を求めて、ひどい境遇の都会へ出てくるではないか。「地域・家族」がうざったいから次男三男、実家と同居しなくてすむ男を選ぶではないか。

 経済支援などではなく「産まなきゃ」と思わせる環境。それさえあれば、女性たちは子供を作ろうと考えるだろう。

 昨年、出生率を2.0の大台に乗せたフランスでは、新生児に占める婚外子の割合が48.3%に達しているという。「日本の1.8%という数字こそが問題である」と、いいところに気づいたなら、婚外子促進を考えればよいではないか。ジャニーズのコンサートにはあれほどファンが集まって、彼らの子供を欲しがるのなら、「ジャニーズ一夫多妻制度」を作ってもよい。「それじゃあ他の男が悔しがる」というなら、逆の一妻多夫も認めて、いい女には多くの男が群がる事ができる「女王蜂制」を創設するのも手だろう。その代わり、法律の一線を超えた者はキビシく処罰する。強姦はまず死刑。援助交際も終身刑。

 政府は、結婚・出産を「機械」としてではなく、「人の営み」として甘く見てはいないか。明治から大正・昭和と、時は流れ「結婚」はどんどん自由になっていった。代わりに、秩序を支えていた「家制度」からは離れ、それは血みどろの闘いの場と化している。「子供を産んで、かつ(自分が)キレイで、ゆとりある生活ができてはじめて勝ち組」という女性たちの理想は、東大に合格するより、一流企業の正社員になるより、よほどキビシい狭き門になっているのである。

 それでも、美しい国と少子化問題を両立させようとするなら、もう古い家父長制度に回帰するしかない。もしそうするのであれば、柳沢大臣はうってつけだと思うのだが。

【注】このコンテンツは、以前に日経ベンチャー経営者クラブのサイトで「美しくて、あいまいな日本」というコラムの記事として公開されていたもので、Tech-On!に再掲いたしました。

著者紹介

神足裕司(こうたり・ゆうじ)
1957年広島生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒。筒井康隆と大宅壮一と梶山季之と阿佐田哲也と遠藤周作と野坂昭如と開高健と石原裕次郎を慕い、途中から徳大寺有恒と魯山人もすることに。学生時代から執筆活動をはじめ、コピーライターやトップ屋や自動車評論家や料理評論家や流行語評論家や俳優までやってみた結果、わけのわからないことに。著書に『金魂巻』『恨ミシュラン』あり。

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