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神足裕司
2006/11/24 22:26
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 筒井康隆氏の『文学部唯野教授』は、とうとう現実になった。

 21日、慶応大学と共立薬科大学の合併が、各紙の一面を飾った。なぜ一面か、と専門家の友人に尋ねたら、「慶応よ、お前もか」ということらしい。

 大学が大変なことになっている。来年2007年度には名前にこだわりさえしなければ、全希望者が大学に入学できる時代が到来するそうで、響きは悪いが「全入時代」と言う。すべての大学入学を希望する者の人数を、すべての大学の定員が上回るのだそうだ。とはいっても、そんなにうまく希望者と大学がぴったりはまるはずはなく、不人気大学の定員割れはすさまじい。

 約4割の私立4年制大学で入学者が定員より少なくなったと、今年の夏、日本私立学校振興・共済事業団が発表した。日本には222校も生徒の集まらない大学があるというわけだ。そういえば、地方では、都会の大学まで受験に行けない生徒のためにホテルの一室を借りて受験させているという話を聞いた。

 それでも生徒が集まらなければ、入試とは別な方法で生徒を集めようとする。受験勉強に苦しんでいる生徒へ「もう勉強しなくて良いよ」と甘いささやきを送るのだ。それを推薦入試という。「一般入試組がもはや少数派」と日経は書く。1992年の第二次ベビーブーム時代には約506万人もいた入試受験者は、2006年には約351万人にまで減っている。けれど、推薦入学の枠は増え続ける。こうして、これまでの「一般入試」は消滅していくというわけである。

 そんな話の一方で、経営者をやっている友人から「学校ぐらいおいしい商売はない」という話を聞いたことがある。声優の学校が大ヒットしたのだと友人は言う。日本が誇る輸出産業であるアニメの声優なら、自分でもできると考える若者は多いのだろう。

 クリエータ養成学校も大盛況だ。ファッションに、CGに、小説、縫い物、ペン習字、あ、そっちはカルチャースクールか。とにもかくにも、学校へ行くのは日本の「美しいかたち」である。だから、子供が学校へ行くことはいいことで、親はそれを積極的に支援しなければならない。

 演劇学校では、学んで、最後に卒業制作をしてという活動の一切が生徒の学費で賄われ、最後は「ではお元気で。さようなら」となる。それでいいなら、確かに「おいしい商売」にみえなくもない。

 いや、だが、おかしくないか?

 そもそも、なぜ日本人は大学へ行くのか。あるいは行こうとして、学習塾へぽんぽん金を落とすのか。それは「大学が就職を保証したからだ」と『希望格差社会』(山田 昌弘著)は言う。どうやら、そんなハーバード大学の研究結果があるらしい。

 いや、そんなことはない。戦後には「大学は出たけれど」という流行語もあった。筆者コータリの時代だって就職氷河期だった。でも、大学で猛勉強した同級生が一流企業へはいっていくのを横目に見て、少なくとも諦めはついた。それが、今はない。勉強しようがしまいが結果は同じ。結局就職はない。いや、今はあるか。

 参議院でまたまた教育基本法が審議されている。「教育」の名を借りてまさに言いたい放題。「心の教育を」と言い、一方では未履修が起きぬよう必修科目を整備して…。

 学校にどこまで時間があると思っているのだろう。近頃の学校では、あきらめて勉強を放り出したやつは疎外され、挑まなければならないやつは地獄のような暗記に苦しめられている。教育は美しいなどと思うから、変な方向へ話が進んで、一部のブランド校ばかりが儲かる仕組みになってしまうのだ。

 大学は何のためにあるのか?

 「先生を食べさせるためにあるのだ」と言ってみたらどうか。そうすれば、一部の、学問を愛する生徒だけが貢ぎ物をするように大学へ行くだろうに。

【注】このコンテンツは、以前に日経ベンチャー経営者クラブのサイトで「美しくて、あいまいな日本」というコラムの記事として公開されていたもので、Tech-On!に再掲いたしました。

著者紹介

神足裕司(こうたり・ゆうじ)
1957年広島生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒。筒井康隆と大宅壮一と梶山季之と阿佐田哲也と遠藤周作と野坂昭如と開高健と石原裕次郎を慕い、途中から徳大寺有恒と魯山人もすることに。学生時代から執筆活動をはじめ、コピーライターやトップ屋や自動車評論家や料理評論家や流行語評論家や俳優までやってみた結果、わけのわからないことに。著書に『金魂巻』『恨ミシュラン』あり。

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