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松坂60億円。プレステ99億円。

神足裕司
2006/11/17 22:22
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 西武の松坂投手のポスティング(入札)に、米レッドソックスが5111万ドル、約60億円もの金額を提示したことは、本人の「びっくり」という言葉を通り越して、ちょっと薄気味悪い。わが広島カープは、近年阪神タイガースのファームなどと陰口を叩かれている貧乏球団ではあるが、選手の総年俸が約15億円だという。もし松坂がカープの選手だったら彼一人を大リーグに出すだけで4年分の年俸が賄えてしまう。

 と、愚痴っていたら、IT関係の仕事をしている友人が言った。

「でも、プレステ3は99億円なんだよね」

 えっ?

「いや、ヤフオクで。ほら、プレステの行列に中国人が並んでたでしょ」

 何を言っているのかわからなかったが、こういうことだ。

 発売間もなく品薄になったゲーム機プレイステーションを、まんまと手に入れたが、何かの都合で余ってしまったら他人に売る。

 ネットオークションを利用する。

 そのプレステに99億円のポスティング(入札)をするやつがいる。といって99億円を実際に支払うわけではない。入札の締め切り間際になってキャンセルするのだ。何人かが高額の入札を行ってドタキャンする。すると最初に1円で入札していたやつが交渉権を得る。49800円もするものを1円ではかなわないから、出品者も取り下げる。取引は成立しない。

 ネット荒らしというやつか?

 いや、そこにはもっと深い闇があるというのだ。

 オークションで転売するために商品を手に入れようとするやつはいる。ダフ屋行為ではあるがとがめる術はない。しかし、これらのプレステは元々組織的に買い占められネットに出ているらしい。だから、プレステの行列に外国人が加わっていたという。で、その転売ビジネスを知っているからこそ、その取引を無効にしようと99億円入札が行われるというのだ。

 一種正義のパトロールのようでもある。

 しかし、ことはプレステに止まっていない。最近は求人誌に「ネット商店の経営者求む」という募集があるのだという。出品者が大量出品し、営利目的の専門業者であることがバレるのは面白くない。だから、個人の「経営者」をわざわざ探してきて、それらに出品させる。ことがいかに組織的に行われているかは、別々の人間が出品したはずのコンサートチケットが、同じ写真同じ説明文で飾られていることなどからわかる。個人を装った組織なのだ。

「下流喰いなんだよな」

 と彼は重苦しい声で言う。

 まっとうな経営なんかではないとわかっていながら、ある年齢で他に職もなく、個人を装ったネットオークション出品者になることが命綱になっている人間がいる。

 確かに深刻だ。が、私は事件取材の経験から、もっと悪い連想が働いた。

 消費者金融は日本に200万人もの多重債務者を生み出したが、その弱者をさらに喰う「ヤミ金」は90年代末からでてきた。彼らが用いる3点セットは、携帯電話と架空口座と債務者名簿だが、そのうち架空口座を作るには多重債務者本人の名義や、ホームレスの戸籍を使う。

 人生のどん底にあるか、もう人生から降りた身であっても、どんな人間であれ最後まで守られる財産がある。人権だ。

 インチキオークションも架空口座もこの最後の「人権」を利用したものだ。医療の世界で生命倫理などと言い、臓器売買が問題視されるが、人権とは人のカラダより重要な人間そのものだ。それさえ売って食わなければならない人々がいて、それを喰いものにする、表には出ない悪い奴らがいる。

 安倍内閣は再チャレンジなどと「美しい」ことを言っている。一方で教育改革でも経済面でも、勝者のための社会を促進している。

 そこに生まれる膨大な「下流」には目を塞ぐのだろうか。

 悪貨は良貨を駆逐するというが、病巣のような人権ビジネスを「あいまい」に放置すれば、健全なビジネスもやがて蝕まれる。

【注】このコンテンツは、以前に日経ベンチャー経営者クラブのサイトで「美しくて、あいまいな日本」というコラムの記事として公開されていたもので、Tech-On!に再掲いたしました。

著者紹介

神足裕司(こうたり・ゆうじ)
1957年広島生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒。筒井康隆と大宅壮一と梶山季之と阿佐田哲也と遠藤周作と野坂昭如と開高健と石原裕次郎を慕い、途中から徳大寺有恒と魯山人もすることに。学生時代から執筆活動をはじめ、コピーライターやトップ屋や自動車評論家や料理評論家や流行語評論家や俳優までやってみた結果、わけのわからないことに。著書に『金魂巻』『恨ミシュラン』あり。

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