DRAMやSRAMのようにランダム・アクセスが可能で,さらに電源を切っても情報が消えない。このような特徴を持つ不揮発性メモリに対する需要は,今後ますます伸びると考えられる。iPod touchなどの新しい携帯型プレーヤが次々と登場したり,またSSD(Solid State Drive,Tech-On!用語)を搭載したノート・パソコンが各社から発売されたりするなど,情報機器に加えて産業機器や車載機器などに搭載する動きも広がっている。こうした需要を狙って,東芝と米SanDisk Corp.はNANDフラッシュ・メモリの新工場を竣工(Tech-On!関連記事1),また米Intel Corp.と伊仏合弁のSTMicroelectronics社はフラッシュ・メモリ事業を統合するなど,業界の動きも活発化している(Tech-On!関連記事2)。
 そこで今回の「技術競争力の検証」では,不揮発性メモリに関して各メーカーの技術競争力を分析する。分析には,公開されている特許情報をもとにして,特許を保有する企業の技術力を測る指標であるPCI (Patent Competency Index)を利用する。PCIとは,SBIインテクストラが独自に開発したものだ。

●図1 不揮発性メモリに関する出願件数の推移
●図1 不揮発性メモリに関する出願件数の推移 (画像のクリックで拡大)

 図1は,不揮発性メモリに関する特許の出願件数と出願人の推移を年ごとに見たもの。さらに不揮発性メモリの中でも,新しい技術であるFeRAM(強誘電体メモリ)とMRAM(磁気抵抗効果を示す記憶素子を用いたメモリ)に関しては,それぞれ単独での推移を見ている。全体の推移を見てみると,分析を開始した1985年以降,出願件数,出願人ともに堅調に伸びている。このことから,各企業が引き続き活発に研究開発を行っていると予想できる。
 FeRAMは,1990年代から製品化されるなど比較的歴史は古いが,特許が出願され始めたのは1988年から。その後も,順調に出願件数,出願人とも増えており,FeRAMの進化を支えている。こうした背景もあって,最近では米Ramtron Internationals社が4MビットFeRAMのサンプル出荷を始めるなど,製造技術の微細化,大容量化が進んでいる。
 書き換え可能回数が無制限であるMRAMの特許が出願されはじめたのは2002年。近年ではセル面積を小さくできるスピン注入方式MRAMの開発が加速されていることから,今後も特許の出願は増えると予測できる。

●図2 2000年以降に出願された不揮発性メモリに関する特許の出願件数シェアとPCIシェア(出願件数上位10社に限定)
●図2 2000年以降に出願された不揮発性メモリに関する特許の出願件数シェアとPCIシェア(出願件数上位10社に限定) (画像のクリックで拡大)

 図2は,2000年以降に出願された特許に対して,出願件数シェアとPCIシェアをまとめたもの。出願件数は,1位:東芝(19.9%),2位:セイコーエプソン(13.6%),3位:松下電器産業(12.5%)となっており,また4位のルネサス テクノロジ(12.3%)までがシェア10%を超えている。
 一方,PCIシェアを見ると東芝が圧倒的に強くなるのが分かる。シェアは25.4%とPCI2位の松下電器産業(16.5%)を9ポイント近く引き離しており,技術競争力が高いと思われる。件数3位の松下電器産業も,PCIではシェアを上げ,件数2位のセイコーエプソン(11.5%)を逆転している。また,その他のメーカーではシャープが出願件数シェア(8.1%)に比べてPCIシェア(12.1%)を伸ばしており,高い技術競争力を持つと思われる。

●図3 不揮発性メモリに関する特許の出願件数シェアを,1999年以前に出願されたものと,2000年以降に出願されたものに分けてまとめた結果(出願件数上位10社に限定)
●図3 不揮発性メモリに関する特許の出願件数シェアを,1999年以前に出願されたものと,2000年以降に出願されたものに分けてまとめた結果(出願件数上位10社に限定) (画像のクリックで拡大)

 図3は,不揮発性メモリに取り組むメーカーの顔ぶれに変化があるのかを調べるために,出願件数のシェアを1999年以前と2000年以降で比較したもの。1位はいずれも東芝で,1999年以前,2000年以降ともに約2割のシェアを持つ。国内メーカーを見ると,2000年以降のシェアの方が高いのがセイコーエプソンと松下電器産業。一方で,NECや三洋電機は上位10社には残れず,またソニーはシェアを大きく落とした(日立と三菱電機に関しては,合弁会社のルネサステクノロジを後継と見た)。
 一方で,1999年以前のシェアと比較して2000年以降のシェアで上位10社に食い込んできたのが,韓国Samsung Electronics社,韓国Hynix Semiconductor社,独Infineon Technologies社といった外国勢。Samsung Electronics社は,NANDフラッシュ・メモリでは世界のトップ企業であり,技術面でも力をつけてきていると言えそうだ。

●図4 不揮発性メモリに関する各社の特許出願件数の推移(出願件数上位10社に限定)
●図4 不揮発性メモリに関する各社の特許出願件数の推移(出願件数上位10社に限定) (画像のクリックで拡大)

●図5 不揮発性メモリに関する各社の投入発明者数の推移(出願件数上位10社に限定)
●図5 不揮発性メモリに関する各社の投入発明者数の推移(出願件数上位10社に限定) (画像のクリックで拡大)

 図4は各社の特許出願件数の推移,また図5は各社の投入発明者数の推移を示している。出願件数で注目されるのは,上位3社である東芝,セイコーエプソン,松下電器が2003年にピークを迎えていること。一方で,ルネサス テクノロジ,Samsung Electronics社,Hynix Semiconductor社は2004年も堅調に出願件数を増加させている。特にSamsung Electronics社は2003年以降も出願件数を大幅に伸ばしており,ランキングは変わってくる可能性も秘めている。
 発明者数の推移を見ると,東芝,ルネサス テクノロジ,サムスン電子の3社が,2004年の発明者の投入でトップを競っている。特にサムスン電子は最近になって発明者を急速に増やしており,不揮発性メモリに関する技術力の強化を図っていると予測できる。


    今回の分析条件

    【分析対象】→不揮発性メモリ
    1985年1月1日~2007年9月3日の日本公開特許を対象に、Fタームに「5F101(不揮発性半導体メモリ)」を含む特許を抽出し,分析対象とした。さらに,MRAM,FeRAMについては以下のFタームより特定して分析している。
    ●MRAM →  Fタームに「4M119」を含む特許群
    ●FeRAM →  Fタームに「5F083FR」を含む特許群
    また,出願期間については,1999年以前とは1985年1月1日~1999年12月31年までの出願期間,2000年以降とは2000年1月1日~2007年9月3日迄の出願特許を分析対象とする。

    【本分析に利用したPCI指標】
    全分析対象特許に対し,「他社からの注目度を示すPCI指標項目」に100%のウェイト付けを行なって各特許のPCI値を算出した後,特許のステータスにより以下のパーセンテージをかけて算出した。
    登録特許:100%,審査請求済み特許:50%,公開済み特許:30%,消滅特許:0%