木崎 『日経ものづくり』編集長の木崎です。今回はセットメーカーとサプライヤーとの連携について,話を進めたいと思います。

勝力 最近の動向としては,大手セットメーカーが収益の面で好調な割には,中小のサプライヤーがその恩恵を被っていないと言われているようです。率直に両者の連携がどうなっているかと聞かれると,うまくいっていないのではないかと感じています。

大黒 すべてのセットメーカーがサプライヤーとの連携に問題があるとは言えないでしょう。ただ,勝力氏が言うように,好調な大手セットメーカーを横目に見ながら,何で俺達はこんなに苦労しなくてはいけないんだ,と嘆いているサプライヤーの話をよく耳にしますね。

木崎 大手セットメーカーの収益が良いのは,一方で,為替の影響なんかによるところも大きいとは思うのですが,他方では,コスト削減や在庫削減など改善の効果が現れてきたからではないかと思います。そして,その努力の陰には,サプライヤーの存在があるはずです。コスト削減の中には,もちろん調達コストの削減もあるわけで,そのためにはサプライヤーの努力が欠かせません。また,在庫削減を実現するにはリードタイムを短縮しなくてはならないので,サプライヤーにはJITを強いることになります。

勝力 それほどサプライヤーが努力をしている中で,セットメーカーだけが増収増益というのは不公平感がありますね。

木崎 もちろん,その利益をサプライヤーに還元しているセットメーカーも多くいるわけです。このままだとサプライヤーがセットメーカーを選別するケースも出てくるかもしれません。厳しいことを要求するようなセットメーカーとは,もう付き合わないとか。そうなってくると,連携がうまくいっているセットメーカーだけ,ますます強くなっていく,という事態になっていくわけです。

大黒 日本のものづくりに携わる多くのプレーヤーがWin-Winの関係を築けるような連携の仕組みを考えなくてはならない岐路に来たのですね。

木崎 そうです。余談ですが,私どもの会社がある白金高輪にも,多くの中小加工メーカーが存在しています。よくそのような加工メーカーの前を通るのですが,果たして元気なのかなと思ってしまうのです。大田区や東大阪市にある中小メーカーも大分少なくなってきたと聞きます。最大の理由は,多くのセットメーカーが海外に工場を移したことによるものです。ただ,セットメーカーとの連携が立ち行かなくなってきたことにより,中小のサプライヤーに元気がなくなっているのだとしたら,どうにかできないものかと考えてしまうのです。

勝力 私,連携という意味を改めて調べてみたのですが,大辞泉では「互いに連絡をとり協力して物事を行うこと」とありました。では,先ほども出ていましたが,部品価格のディスカウントや納入品のリードタイム短縮の要求は「連携」と言えるのか。それらは連携した結果,得られる効果だと思うのです。連携した結果として,部品価格の低減やリードタイムの短縮という効果が得られるのだと思います。

木崎 確かに正しい連携,辞典に掲載しているように「協力して」いるのであればまったく問題ないはずです。ただ,一方的に「部品の価格を下げろ」,「言われたときに言われた量だけ持ってこい」とセットメーカーからサプライヤーに伝えても,それは連携ではないですね。

勝力 「部品を安く買いたい」「部品在庫をなるべく少なくしたい」という要望は当然セットメーカーとしてはあるわけです。ただ,その効果だけをサプライヤーに要求したとするとどうなるでしょう。

大黒 自分たちが本来しなくてはいけない努力,そして,サプライヤーと共に汗を流す努力を,一方的に押し付けているだけに聞こえますね。

勝力 そうなのです。このような難しい要求をするのであれば,これまでの連携の方法も見直すべきです。どうやったら部品を安くできるのか,どうやったら在庫を少なくできるのか。それこそ,互いに連絡をとり協力して改善していかなくてはいけないはずです。これがないと,セットメーカーとサプライヤーの関係は,一気に悪化していくでしょうね。価格を下げるための取り組みには,セットメーカーとサプライヤー間を越えた部品の標準化などいろいろなものが考えられます。需要情報の共有もよく取り上げられる連携の一つです。より協力体制を強化していく必要を皆さん認識されていると思うのですが・・・。

木崎 価格だけで言えば,そこで引き合いに出されるのが中国サプライヤーです。中国サプライヤーから購入すればここまで安くできる,だから何とか安くできないか,となるわけです。そこで要求するだけで終わるのか,それとも何とか一緒にやっていこうと,対応策を一緒になって考えるのか,価格以上のプラスアルファの価値を見つけるのか。そこで大きく違ってくるような気がします。

大黒 確かに,新たな問題や要求を解決するには,絶対にセットメーカーとサプライヤーが協力しなくてはならない。そして,この協力関係の構築に重要な鍵となるのが,“調整役”の存在だと思っています。

木崎 実際に双方の間に立って,連携を先導する人でしょうか?

大黒 そうです。結局,自社だけではすべてを賄い切れないからサプライヤーに協力を仰いでいるわけで,新たな課題を解決するためには,どうしてもサプライヤーが必要なわけです。そのときに,双方の力量を測った上で“できる範囲”や“落とし所”を調整する行司役が必要なのです。私が非常に危機を感じているのは,この行司をする人間がセットメーカーからいなくなっている,もしくは,その力量,つまり行司軍配の内容が粗悪になっているということなのです。

勝力 大黒さんが,そのように感じているのは,何故なのでしょうか?

大黒 セットメーカーとサプライヤーで連携するためには,目の前の問題や課題,責任分担を明らかにした上で,作業計画を決める人が必要となります。もちろん,サプライヤーの責任だけでなく,自社の責任範囲も明確にする。当然,責任範囲を決める上で,サプライヤーの実力以上に責任を求めても意味がないわけですが,最大限の努力をしてもらうことも必要です。表面だけの知識ではサプライヤーの言い分に惑わされ,一方では,内なる会社の論理に押し潰され,詰まる所,力量がない限り,正しい落とし所の判断はできません。結局,このような調整が的確にできる人は,実践経験が豊富な現場主義の人です。現場を熟知していてこそ,現場が結果をだせるのです。

勝力 現場主義で,双方を調整できる人は減ってしまったのでしょうか? 特に団塊の世代に多かったのが原因とか? でも,今でも優秀な方はどこかにいるのですよね。

大黒 世界のどこかで,今でも第一線で頑張っていらっしゃると思いますが,日本の企業の中では絶対的に少なくなったと感じています。その理由の一つは,多くのメーカーが採用している成果主義にあると考えています。
 成果主義は,その名の通り成果を出すことが重要です。成果を出してこそ,ボーナスがあり,そして出世の道があるのでしょう。となると,面倒なこと,大変なことは他人に押し付けがちになる。要するに要領の良い輩の勝ちという世界です。一方で,サプライヤーと一緒になって成果を出すことは,絶え間ない努力と,果てしない時間が掛かる作業です。たとえ努力と時間を掛けても成果は現れないかも知れない。はっきり言えば,こんなことをしても,成果がでない可能性も高い。

木崎 だから,調整役がいなくなるわけですね。

大黒 もちろん,成果主義が導入され始めたころは,そういった汚れ役を,長年の人間関係から買って出てくれる人がいたわけですね。ただ,時代が変わり,目先の成果,小手先の成果をアピールする輩が巷にあふれ出す。そんな矛盾を長く続けていると,さすがに汚れ役を買って出てくれた人も嫌になってくる。汗をかいただけ,泥をかぶっただけ,どんどん給与が下がっていくのですから。結果,だれも調整役がいなくなり,残ったのは要領の良い人間ばかり。

木崎 そうなってくると,課題をすべてサプライヤーに押し付ける,という最悪の構図になってしまうわけですね。

大黒 簡単にまとめると,「行き過ぎた成果主義 → 汚れ役が不遇 → 消えゆく人材 → 残るは机上の管理者のみ → 無理難題は下流へ → セットメーカーとの連携崩壊 → 自社の首が絞まる → 内部崩壊」となるわけです。サプライヤーとうまくいってないなー,と感じたら,まず内部の組織構成に原因あり,ということです。

勝力 結果として,原因は内部の組織構成というのは説得力がありますね。人材をうまく使えないのは組織の問題だと思います。その問題点の解決策として考えなくてはならないものの一つが,大黒さんのおっしゃる成果主義の見直しでしょうか。どこの会社でも,おそらく目に見える努力もあれば,目に見えない努力もある。その見えない努力を成果主義でどう汲み取っていくのかは,とても難しいことだと思います。

大黒 言い訳がうまい,口達者だけがいても会社はうまく機能しません。汚れ役,調整役をきちんと評価し,額に汗かく人を増やしていかないと。しかし,結局は上に立つ人の眼力に頼って,汗かき役を登用してもらうしかないのですが。

木崎 今までのお話を聞いていると,セットメーカーの人材の話ばかりでしたが,一方でサプライヤーのお話はあまりされませんでしたね。

勝力 どうしても,セットメーカーの方が立場的に強いので,セットメーカー側が無理強いしているというイメージが強いですね。でも確かにサプライヤーに問題がないとは決していえません。

木崎 そうなんです。確かにサプライヤーは立場が弱い方なので,ともするとかわいそう,と思われがちです。しかし,サプライヤーが努力することで,両者の連携が改善されることも多いのではないかと思っています。

勝力 オンリーワン技術,すなわち自分たちでしかできないような技術を持つ,ということも連携改善のきっかけになると言えると思います。セットメーカーとの連携に対して,さまざまな提案が可能になります。行き過ぎると,むしろ我がままを言うセットメーカーも出てくるかもしれませんが,仕事を断れるぐらいの技術力を付けろと言う事でしょうか。でも,それって決して簡単なことじゃありません。

木崎 現実,オンリーワン技術を持っているサプライヤーであれば,セットメーカーも一目置いているので,連携がうまくいっているのではないかと思うのです。が,ほんの一握りでしょう。

大黒 問題は,そのほかの大部分を占めるサプライヤーがどうすればよいかということです。オンリーワン技術とは言わないまでも,日本にいるからには,同じ仕事の延長線上であっても,新しいことにチャレンジしなくては生き残ることは難しいかも知れません。言い換えれば「極める」とでも言いましょうか。一歩でも上を目指す意味のチャレンジだと思います。

木崎 私も大黒さんと同じ意見です。最初の話に戻りますが,真の連携をしたいのなら,新しいことにチャレンジしていかなくてはなりません。そういった心構えを持っていないと,セットメーカーも単なる下請けとしか見てもらえなくなってしまう。現状の技術だけで賄える仕事を待っているだけでは,もう生きていけない時代ではないでしょうか?

勝力 具体的にはどうしたら良いのですかね。

木崎 解決策になるかどうかは分かりませんが,一つは中小のサプライヤーであっても積極的に営業活動に出かけることではないでしょうか? この前,取材先の人と話していたら,「中小の部品加工メーカーはあまり外に出ることをしない。もっと外に出て世の中で起きていることを肌で知るべきだ」と言っていました。確かに,中にいるだけでは世界が広がらないし,待っていても新しい仕事が来るわけではありません。いきなり営業と言っても難しいかもしれませんが,例えば展示会などに出かけてみて人間関係を作るなど,新しくチャレンジができるきっかけを積極的に作るべきでは,と思います。


【今回の要旨】
■セットメーカーとサプライヤーが良い関係を築くために
   →サプライヤーへの一方的な押し付けは,問題の先送り
   →セットメーカーは両社の調整ができる人材を育てる
   →サプライヤーはあくまでチャレンジしていく心構えを持つ