趣旨
 元来、余は科学少年であった。少年マガジンに載っていた近未来兵器の絵を模写し、アンシュタインのあっかんべーを形態模写し、ひとりドップラー効果を演じて若き日を過ごしたものである。
 20世紀末、科学書が伝える程度には世界が分かっていた気分になっていた。だから、いま大いに驚くのだが、20世紀に考えたことは、そのほとんどが間 違っていた。そう訴える本が次々登場し、NHKが番組を作るのである。インカ帝国は当時のヨーロッパ文明より進んでいたとか。
 いま、NHKの番組製作者は血眼になって旧世界の間違いを正すべく読書に励んでいることだろう。だから、私は新世界への架け橋を公共放送にだけ独占させてはならないと思う。世界の科学技術に、新理論に、かつてのいち科学少年として突っ込みを入れたいと切に願うのである。
神足裕司(こうたり・ゆうじ)
1957年広島生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒。筒井康隆と大宅壮一と梶山季之と阿佐田哲也と遠藤周作と野坂昭如と開高健と石原裕次郎を慕い、途中から徳大寺有恒と魯山人もすることに。学生時代から執筆活動をはじめ、コピーライターやトップ屋や自動車評論家や料理評論家や流行語評論家や俳優までやってみた結果、わけのわからないことに。著書に『金魂巻』『恨ミシュラン』あり。