「白い恋人」事件と現場の声の信憑度
夏休みでネタ枯れの最中、石屋製菓が「白い恋人」の賞味期限を改ざんしていたことが発覚、メディアの一斉追求を受けることになった。火に油を注ぐ結果になったのは、またぞろ社長の対応だった。当初、「私は知らなかったが部下が…」と言い逃れを試み、悪役に仕立てられた人物が役員中唯一の非血族だったことから「政治家の『秘書が…』という言い訳と同じ」「きっとウソだろう」との憶測を呼び、それが図星だったということで、ついに社長は辞任に追い込まれたのである。
この事件に、持病である詮索癖をいたく刺激され、石屋製菓についての古い記事を検索していろいろと読んでみた。さすがに名物社長だっただけのことはあって、石水勲氏による「白い恋人」の誕生談と、そこに成功哲学、経営哲学がケーキのデコレーションのようにちりばめられた記事がやたらと多い。もちろん、「素材にこだわり、衛生に最大限の配慮を払っている」といった趣旨の発言もある。食品を扱う企業の経営者が「素材や衛生管理は二の次」などと言っているのは見たこともないので、まあ当然の発言ではあるが、今この状況で読むと、かなりカッコわるい。
そんな、いささかワンパターンの記事を読み漁り、かなりの満腹感を覚えてきたところで、ある記事にぶち当たり、ちょっと狼狽してしまった。何も狼狽することはないのだけど、「自分が担当編集者だったら同じことをやったかも」と、肝を冷やしてしまったのである。
その記事はお決まりの社長インタビューで、内容もハウツーものの体裁をとった自慢話という何の変哲もないもの。ただ他とちょっと違うのは、付録的に別掲記事があり、そこに現場責任者の「わが社では実際に、衛生には細心の配慮を払っている」という趣旨の発言を載せていたのだ。今この状況で読むと、2倍カッコわるい。
この記事を担当した編集者はさぞやヘコんでいるだろうと心が痛むのだが、そのような構成にしてしまった理屈はよくわかる。私たちも編集者になったその日から、書くときは「ウラをとれ」ということを何度も言われてきた。それをやったのだろう。つまり、社長に社の姿勢や方針を聞いて鵜呑みにするのではなく、実際に現場で働く人に実情を聞き、社の方針が本当に実践されているかどうか確かめたのである。
この記事を読んで思い出したのは、編集者という職に就いて間もないころ、ある大先輩に誘われて同行した取材先での衝撃的な出来事だった。 (次のページへ)
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