ちなみに日本はどうかと言うと、私の体験からすると、その中間ではないだろうか。「ボッタクリか?」と思うこともあれば、「真面目にやっているなぁ」と感心することもある。その両方が混在しているのが日本の状況だと思う。

そのグレーさを代表していると思うのが、たとえば商品名やキャッチフレーズによく使われる「最高級」「厳選」「逸品」といった文字だろう。あらためてよく見てみると、首をかしげてしまうようなものが最高級だったり逸品だったりする。さすがに、それはウソだろう。いや、ウソではないかもしれないけどかなりウソっぽい。事実、ほとんどの人がそんな文句を信用していない。気にすらしていない。「あちらは高級でこちらは最高級、だからこちらを買おう」などとは、少なくとも私は思わない。

この、「高級」というキャッチコピーと同じような機能を果たすのが、価格である。むしろこちらの方が、文字情報などより効果は大きい。消費者は、「高いものはいいもの」だと、何となく思っている。それは、商習慣が「誠実であること」を前提としている。それを悪用するという、あまり誠実とは言えない方法をしばしば見かける。

これは某デパートで起こった話だ。呉服売り場である着物を30万円の値札で販売していたのだが、どうも売れない。そこで、歳末セールの際に思い切って半額にしてみたが、売れ残ってしまった。そこで、逆に倍にして60万円の値札を付けてみた。すると、数日のうちに売れてしまったのだという。

これはデパートの販売担当者の「手柄話」として聞いた話だが、素直に賞賛する気にはなれなかった。実に危険な要素を含んでいるからだ。

なぜ危険なのか。白鳳堂という、化粧用筆メーカーの二代目経営者である高本壮氏から以前に聞いた話を紹介したい。

そもそもこの会社がある広島県熊野町は、全国に知られる筆の主要産地だった。ところが筆産業は衰退し、多くの筆工場は転業や廃業を迫られることになる。その原因はいくつもある。書道を授業で教える学校が減ったこと、中国製の安価な筆が大量に入り込んできたこと、などなど。

「それもあるが致命的だったのは、完全に信頼を失ってしまったこと」だと彼は断言する。例えば、500円の筆に800円の値札を張る。それを値引きして売るのである。それによって一時的には売り上げも伸びた。しかし、効果はすぐに消えてしまう。ではということで、今度は1000円の値札を張り、5割引で売る。それでももの足りなくなって2000円にする、3000円にする…。こうして熊野筆は市場での信頼を失い、このことが衰退の歩を速めてしまったのだという。

「不誠実さ」が、結局は地域産業を滅ぼしたのだという指摘である。似たような話をソフトブレーンの創業者である宋文洲氏からも聞いた。彼は日本企業の「営業」というものに、深い疑念を抱いている。例えば、日本では営業は「話術」だという。これをテーマにしたビジネス書は山のようにあるし、営業担当者を対象に「話術で売るテクニック」を教えるセミナーも多く開かれている。宋氏は言う。

「確かに、売るための話術を実に付ければ一時的に成績は伸びる。しかし、長期的には大きなマイナスになるはずだ。その場で言いくるめられて、あまり欲しくもない商品を買わされた顧客は、あとで必ずイヤな思いをするはず。あの会社は不誠実だという印象を、どうしても持ってしまうだろう。その顧客の思いが、ゆっくり会社を滅ぼしていくのだ」

私がこの話題に執着するのは、グレーな日本に身を置く企業が、「失われた10年」の反動として「利益至上主義」に走り、「不誠実さ」に対して鈍感になってしまうのではないかと危惧するからである。ネットの普及で、人々は簡単に「ニセモノ」「ボッタクリ」の商売に手を染めることができるようになった。例えばネットオークションで、持ってもいない商品の写真を掲げ「空売り」することが中学生でもできてしまう。

だからこそ、ネット時代には「誠実さ」が必要だし、それが大きな価値になるのだと思う。そのためには企業が、目の前の利益だけに心を奪われない、長期的視野というものを持つことが必要なのだと。大きなお世話かもしれないけれど。