木崎 『日経ものづくり』編集長の木崎です。今回は,素材やエネルギー資源の価格が高騰する中で,製造業として検討するべきことを考えてみたいと思います。

大黒 私も,その昔はメーカー勤めをしていたので,最近の原材料費の高騰が製造業に与えるダメージが気になっていたところです。たとえ,売り上げが増えても,原材料費が高くなってしまえば利益が出ませんからね。

木崎 そうなんです。実際に,企業の決算などを注視していると,原材料費の高騰が業績に大きな影響を与えている例が少なくありません。例えば,日立製作所の2006年度の連結決算は,売上高が前年度比8%増ながら営業利益が29%減と増収減益でした(Tech-On!関連記事1)。同社は減益の大きな理由として,民生品の価格下落と共に原材料費の高騰を挙げています。

勝力 私も,今回の原材料費高騰の題目を頂いてからちょっと調べてみたのですが,思った以上に製造業の今後の戦略に影響を与えそうですね。現在,業績としては絶好調と言える三菱電機も,原材料費の高騰が懸念材料としてあるため,2007年度の経営環境は楽観視できないと発表しています(Tech-On!関連記事2)。
 また,出光興産は2007年4月に,石油系燃料を使った電力を仕入れて販売する電力小売事業から撤退しました(Tech-On!関連記事3)。2005年1月に参入したばかりの同事業にも関わらず撤退するのは,原油価格の上昇により,競争力を維持できなくなったからだといいます。

木崎 石油と共にとりわけ,価格高騰というと最近話題になっているのはレアメタルですね。レアメタルとは,(1)埋蔵量が少ない,(2)埋蔵量があっても,採算が合わない,濃度が低い,分布がバラバラなどの理由で,採掘できる量が少ない――金属を称するものです。その中には,ステンレスをはじめとした特殊鋼の材料となるCr(クロム)やNi(ニッケル),超硬合金の材料となるW(タングステン),液晶パネルなどの透明電極などに利用されるIn(インジウム),自動車の排ガス浄化用触媒などに利用されるPt(白金)などが含まれ,日本が得意とする先端産業にとって,これらは非常に重要な物質となっています。

図 レアメタルは通常,希土類(イットリウムとスカンジウムおよびランタノイド)の17元素を1種類と数え,合計31種類としている。
図 レアメタルは通常,希土類(イットリウムとスカンジウムおよびランタノイド)の17元素を1種類と数え,合計31種類としている。 (画像のクリックで拡大)

勝力 特に日本の産業界に与える影響が大きい7鉱種については,「レアメタル国家備蓄制度」を設けて,国を挙げて材料の確保を目指しています。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)のホームページでは,7鉱種の価格推移を掲載していますが,まだ高止まりを見せていない鉱種もあり,予断を許しません。調査を始めて以来,最大で底値の10倍以上の価格を付けた鉱種もあるというのですから,レアメタルの高騰は深刻な問題と言ってよいでしょう。

大黒 実は,前々から疑問に思っていたことがあるのですが,石油にしてもレアメタルにしても,本当にレア(rare:まれ)なのでしょうか?

木崎 と言いますのは?

大黒 自分の子供の頃にも石油危機が叫ばれ,幼いながらにトイレットペーパーがなくなるのを心配した覚えがあります。確か"21世紀の初頭には石油がなくなる"と言われていたような。でも,現在は石油がなくなるという話は聞くことがなくなりましたね。

木崎 石油の埋蔵量,正確に言うと「確認可採埋蔵量」は増加しているらしいですよ。というのも,新たな油田の発見があったり,採掘技術の進歩があったりしているのが,理由らしいです。

勝力 大黒さんはレアメタルでも同じことが言えるのではないか,ということですか。

大黒 そうなんです。1990年代にレアメタルの価格が安かったときは,資源開発が進みませんでしたからね。今後その埋蔵量は需要に応じてどんどん増えていく可能性も,あるのではないかと。しかも,価格自体は高止まりのままコントロールされ続けた上で。
 まあ,いずれにしろ,供給量が十分かどうかはともかく,需要が増えれば価格が上がるというのは需給構造として当然なものなので,企業としては何らかの対策を練らなくてはならないのは,必須ですね。話を脱線させてしまってすみません。

勝力 価格が高騰している原材料の使用に関して,企業としてどう対応するかというと,素直に考えれば三つあると思います。その材料の使用量を「減らす」,もしくは他の材料によって「代替する」,機能を省くなどして材料自体を「使わない」。これらのいずれかになるのではと思います。

大黒 大胆な策としては,自社でその原材料を「掘る」という方法もありますけど,採算の問題もありますし,ましてや資源の乏しい日本じゃ現実的じゃないのかも知れません。

勝力 実は私は,前述の三つに加えて,さらに企業が取るべき策としてもう二つ意識してもよいのではないかと思っている事があります。一つは材料の購入費を「安くする」,そしてもう一つは,材料を使用した「製品価値を高める」です。
 原材料費が高騰しても,材料の使用量を減らすことができないし,代替する材料も見つからない。その材料を使って実現している機能は,その製品には絶対に必要である。こういった,八方ふさがりの状態で必要となってくるのが,「安くする」,「製品価値を高める」といった取り組みなのです。

木崎 すみません。原材料費が高騰する中で,購入費を「安くする」というのが,意味が分からないのですけど。

勝力 ご指摘の通りです。一般的に相場が高くなっているのですから,闇ルートで流れてくるもの以外に,安く購入できる訳がありません。私が言う「安く購入する」というのは,ストレートに言ってしまえば,リサイクル,いわゆる「都市鉱山」を活用することです。

木崎 つまり,新品に比べれば,リサイクルされた原材料の方が安く購入できるというわけですね。

勝力 レアメタルなどの資源が枯渇する,ということは,随分と昔から言われていました。このため,リサイクルに早くから取り組んできた企業も多くあります。もっとも,リサイクルの仕組みを作るだけでもコストが掛かるため,逆にリサイクルした方が高くなったケースもありますが,技術がもっと発展すれば,リサイクルされた原材料を安く購入できるようになるはずです。

大黒 ただし,安いからと言ってリサイクルした原材料に飛びつくと,痛い目に会うこともあるかもしれませんよ。新品と同じ物性を保持しているかどうかが分からないですから。

勝力 大黒さんが言うように,リサイクル品を使用しても問題がないかどうかを評価する仕組みも当然必要となってきますね。

木崎 もっと言うと,リサイクルされた原材料を使用しても問題ないように,自社の生産設備を改善しなくてはならないこともあるかもしれません。リサイクル品が新品と同じ形状で納入されるかどうか分からないですし,またリサイクル品の場合には特殊な処理が必要になることもあるかもしれません。いずれにしろ簡単にリサイクルされた原材料を使いこなす,と言うには,リサイクルする企業も,リサイクルを活用する企業も,かなりの技術力が必要となりそうです。

大黒 リサイクルされた原材料を活用して,コストダウンを図るにはもう少し時間が必要なようですね。

勝力 次に,「製品価値を高める」ですが,もう絶対的に高騰した原材料を使用せざるを得ないといった場合に必要となってきます。もちろん,原材料で押し上げられた製造原価を他の部分の原価低減で吸収できるのであれば,現状価格を維持する事も可能ですが,今の価格高騰のスピードについていける企業は少ないでしょう。
 であれば,原材料の高騰分を製品価格に転嫁しても,ユーザーが購入してくれる製品でなくてはなりません。すなわち,その製品そのものがユーザーにとって,「減らせない」,「代替できない」,「必須である」といった位置付けとなる必要があるわけです。

木崎 「製品価値を高める」というのはこれまでも当たり前のように言われてきたことではあります。ただし,原材料費の高騰という背景からも,それらの取り組みをより一層進めていかなくてはならないという,局面に来ているのですね。

勝力 難しい課題ではありますが,まずは目指すべき姿を明確に意識するべきと思っています。その上で,原材料費の高騰を製品価格に転嫁できないのであれば,出光興産が事業から撤退した様に,採算を基準に撤退の判断が求められる製品が出てくるのも必然ではないかと思います。

大黒 なるほど,勝力氏は,原材料費の高騰に対して企業が打つべき施策について意見を述べられましたが,実は,私は地球資源的な見地から,“価格高騰は必要悪”ではないかと私は思っているのです。

木崎 価格高騰を容認しろ,ということでしょうか?

大黒 そうあるべき,否,正確に言えば,そうならざるを得ないのです。私がそう考えるのは,「モノは消費し続ければ必ずなくなる」という原点からで,将来有望な資源を枯渇させないためには「循環型の消費」スタイルを早急に構築する必要があります。将来像としては,使用量がリサイクル量と同等になることが最終的な目指す姿であり,すなわち,新たに採掘しなくても,リサイクルされた原材料で需要を賄える状態に持っていくことが理想となります。

木崎 そうなると,本当に新たに資源を産出する必要がなくなりますね。

大黒 特に,レアメタルが本当にレアならば,新たな採掘量を最小限にしなくてはならないハズです。この考えを前提にしたシナリオは以下の通りです。
(1)レアメタルを地球上から枯渇させないために,レアメタルの新規産出を極力減らす
(2)代わりに,レアメタルのリサイクルを活用し,リサイクル品で需要を満たす
(3)そのためには,リサイクル費用がペイできる,つまりリサイクル品が新品と価格で勝負できる程度の原材料費の高騰は必要
(4)その高価格の中で,「減らす」,「代替する」,「使わない」と言った取り組みによる使用量の削減と,技術革新によるリサイクル量の増加から,リサイクル品を中心とした需給バランスを実現する。
 このシナリオからも分かるように,消費文化からリサイクル文化に進化させるためには,それ相応の価格高騰は避けられないとの考えに,私は立っているのです。

木崎 原材料費の高騰には,輸出規制や資源の囲い込みの結果かもしれませんが,それでも容認すべきだと思いますか。

大黒 容認する,しないに関わらず,外的要因として,輸出規制や資源の囲い込みは現実に起こりつつあります。しかし,逆に考えれば,レアメタルなどに使用制限が掛かるということは,否応なしに代替技術やリサイクル技術の進歩を促す原動力になります。その結果,地球レベルでの使用量削減を推進し,地球資源に貢献できれば,日本が技術立国としての地位を確固たるものにすることも夢ではありません。今必要なのは,「使用量を削減する技術」とともに「高度なリサイクル技術」なのです。繰り返しになりますが「消費社会からの脱出には金が掛かる」のは,いたしかたないことです。


【今回の要旨】
■原材料費の高騰にどう対応するか
  →価格高騰に負けないぐらいに製品価値を高める
  →リサイクル材料を利用できる技術力を付ける
  →リサイクル社会への脱皮を!そのために価格高騰は“容認”

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