17年目の正直---新興セルビックにみる中小企業の一つの生き方
日本の中小加工メーカーはグローバル化の波にのみこまれて苦悩している---。こうした内容の記事を読んだり(例えば,『日経ものづくり』2007年6月号の特集),自分でも書いたり(以前のコラム)することが増えた。中小加工メーカーは今後,どのようにこの苦境を打開していったらいいのだろうか。こう考えていて突然,「新興セルビックの竹内宏社長に会ってみよう!」と思い立った。筆者が日経ニューマテリアルや日経メカニカル(現在の日経ものづくり)の記者時代に取材でお世話になった金型メーカーの社長さんだ。
竹内氏は,当時から様々なアイデアの射出成形機や金型を考案し,それを使っていかに日本で成形業を続けるかを模索していた。彼は今,何を考えているのだろうか。当時,日経メカニカルの記者として「竹内番」といわれるほど新興セルビックネタの記事を「量産」していたK君(その後,日経ものづくり記者,現Tech-On!副編集長)に連絡をとってもらった。ということで,5月某日,K君,Tech-On!のH編集長,筆者の3人で竹内氏にお会いした。筆者にとってはほぼ10年ぶりの再会であった。
商店街の一角にある町工場
10年ぶりに東急・池上線の旗の台駅を降りる。そうそう,ここに踏み切りがあった。歩いていくにつれて,焼き鳥の煙がただようアットホームな雰囲気の商店街,竹内社長と打ち合わせをした昔ながらの蕎麦屋が次々に目に入ってくる。そして商店街を少し外れたところに忽然と姿を現す倉庫のような新興セルビックの社屋,機械油の匂いとウィーンという機械の作動音…。変わらないなぁ,と感傷にひたっていると作業場の奥から「ひさしぶり!」と,これもまた以前と変わらない笑顔の竹内氏が現れた(写真1)。
あいさつもそこそこに,竹内氏が「とにかくこれを見てください」と指差す先には,机の上にのるサイズのかわいい射出成形機があった(写真2)。K君が『日経ものづくり』の創刊号で紹介し,その後もさまざまな改良が加えられてきた型締め力1tfの超小型射出成形機だ。数mm角程度の小さな白い機構部品らしきものをサイクルタイム4秒程度の速さでせっせとつくっている。
筆者が「話には聞いていましたが小さいですね!」と思わず声を上げると,竹内氏は,「完成度上がったでしょ。小さいながらも健気に仕事してるでしょ」と我が子を自慢するような口ぶりである。そして「皆さんのように昔の私を知っている人にこそ見てほしかったんです。ここに来るまでに実質17年もかかったんですよ」というのである。
「これがやりたかったことなんです」
17年といえば,筆者がよく取材させていただいた10数年前には既に開発を進めていたことになる。「ということは竹内さん,私が取材させていただいたユニット金型とか円錐形のスクリューとか,いろいろ考案なさっていたものがこれにつながったということですか?」と聞くと,竹内氏は,「そうです。竹内はいろんなことに手を出して,一体何をやろうとしているのかと不思議に思われていたかも知れませんが,これがやりたかったことです。もっとも円錐形のスクリューはもっと短くして平板にしちゃいましたがね」と言う。
それを聞いてまたしげしげと成形機を眺めていると,竹内氏はかつて筆者やK君が日経メカニカル誌に書いた技術を指折り数え始めた。「ユニット金型でしょ,フラット金型でしょ。そして5年もかけたホットランナー,これもKさんが記事にしてくれましたね。さらに重要だったのが,減速機。100対1ほどの減速を,コンパクトでしかも歯先強度に悩まされることなく実現できる,波動歯車の原理を応用したものを開発しました。これらすべての集大成がこの超小型射出成形機というわけなんです」。
つまり,スクリューを平板状にして極限まで短くし,コンパクトで減速比が大きい減速機を使うことでサーボモーターを小型化できた。こうして成形機全体を徹底的に小型化したことから,小さな部品でも1個取りできるようになった。さらに,通常は金型側に付いているホットランナーを成形機に付けることで,スプルー・ランナー部の廃材も出ない。こうして,数mm角の小型部品を最少のエネルギー,最少の樹脂投入量で成形できるようになった---というわけである。
これに対して,従来の射出成形機では,その能力からいって小型部品では1個取りではもったいないのでどうしても多数個取りしたくなる。その分,スプルー・ランナー部が大きくなる。成形する部品が小さいほど,相対的にスプルー・ランナー部が大きくなっていき,巨大な型締め力と射出のエネルギーのほとんどを「スプルー・ランナー部を作るために」費やしてしまっている。
例えば,数mm角程度の小型部品の場合,投入した樹脂のうち,実際に部品として使われるのは10%程度に過ぎず,残りの90%はランナーやスプルー部分になり,廃材になってしまうという。この廃材をつくるためにも,ペレット(成形機に投入する粒状の原料樹脂)を乾燥して,加熱して可塑化し,ものすごい力をかけて金型に押し込む。そのためのエネルギーの9割方が無駄になっているのだ。つまり,竹内氏の開発した超小型射出成形は,エネルギー,資源(樹脂)ともに1/10に節約できる技術なのである。
当たり前のことがなぜできないのか
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