NHKの5回シリーズのドラマ「ハゲタカ」が先週の3月24日に終わった。日本の銀行マンから外資系のファンド・マネージャーに転進した男が,瀕死の日本企業を買い叩く話である。このファンド・マネージャーの目的は,買収後にリストラを推し進めて企業価値を上げて利益を得ることだが,工場閉鎖や人員整理を強引に進めたことから自殺する経営者も出てしまう。だが一方で,現状の経営陣や体制のままでは自力で企業再生を進めることが難しい状況にメスを入れる「救世主」としての側面も持つ。「ハゲタカ」は見るものの価値観によって,「悪魔」にも見えるし「救世主」にも見えるということのようである。これからの日本は,今後増えるであろう「ハゲタカ」という言葉に象徴される外資系ファンドとの付き合いをどう進め,価値観をどう変えていったらよいのか---考えさせられるドラマだった。

 そのファンド・マネージャーである鷲津政彦に扮したのが大森南朋だ。日本の銀行マン時代に,貸し渋りによって中小加工メーカーの経営者を自殺させてしまったという経験を「原点」(トラウマ?)として心に抱えながら,抑揚を抑えた口調で経営陣にズバリとリストラを迫る演技がなかなか迫力があった。どこかで見たな~と思っていたら,同じNHKが2005年12月に放送したドラマ「クライマーズハイ」で日航機が墜落した御巣鷹山にボロボロになって登って取材する記者を演じていた役者さんであった。このときもデスクに「なぜ原稿がボツになったんですか!」と食って掛かる演技がいかにも生意気な記者という感じでリアリティがあった。

ドラマに見る「日本的」なるものと「欧米的」なるもの

 さてドラマでは,「大空電機」という大手電機メーカーが登場する。菅原文太扮する創業者が,小さなレンズ工場を皮切りに成長させた大企業で,戦後,焼け野原の中から見た青空に感激して命名したという設定だ。大空電機の強みは,優れたものづくり力である。例えば,レンズ工場には40年以上レンズを研磨してきた技術者がいるなど,高い技術力を持っている。

 しかし,このものづくりの名門企業も赤字に陥り,いかに再建するかが課題になり,社内で再建計画がスタートする。一方で,米国本社の指令を受けて,ファンド・マネージャーの鷲津が同社の買収に乗り出す。米国本社が指令を出したのは,同社の顧客が大空電機のレンズ部門の技術力を評価し高額で買収したいと言ってきたためであった。

 鷲津はまず,株主総会での委任状争奪戦(プロキシーファイト)によって経営権を争う方法を選ぶ。公の場で,創業者が守ってきた日本的経営の問題点を衝き,大胆なリストラの必要性を訴えて理解を得るためであった。しかし,その株主総会では創業者が病床から送った「人と人をつなぐものづくり」の重要性を強調したメッセージが株主の心をつかみ,鷲津は敗北。そこで鷲津はTOBをしかける方法に転じる。

「技術→利益」か「利益→技術」か

 このくだりを見ていて,技術をめぐる「日本的経営」と「欧米的経営」の対比を改めて考えさせられた。日本企業は戦後,欧米企業の模倣から始めたものの,ひたすらものづくり力を磨き,技術力を上げてきた。その結果として,まず技術を磨く→その結果として利益を上げる,という考え方が染み込んでいる。

 これに対して,欧米企業では,まず利益を上げることを考える→その手段として技術を活用することを考える。その場合の技術は,自社で開発できればそれに越したことはないが,場合によっては何らかの方法で他社のものを導入してもよいと考える。優れた技術を持ってはいるもののそれを利益に結び付けられない日本と,技術はどこからか調達して利益を上げることを優先する欧米---という対比になろうか。

 もちろん,「技術」と「利益」の両立が理想であるが,実際にはどちらかに多少なりとも傾くことになる。そして往々にして「技術→利益」の考え方は技術偏重で利益軽視になり,「利益→技術」の考え方は利益偏重で技術軽視となりがちである。

 つまり,各業界・各社の状況によって「技術→利益」と「利益→技術」のどちらに重きを置くのか,ということだろう。そして,日本企業だからといって「技術→利益」の考え方がまだ大勢を占めているかといえば,少しずつ状況が変わってきた。特に厳しいグローバル競争にさらされている半導体業界では「利益→技術」の考え方を採る人が多くなっている。これまでの「技術→利益」の考え方だと世界で勝つことはできないとの主張が広がっている。

「『額に汗して働け』だけでは勝てない」

 例えば,日本の半導体メーカーから米国の装置メーカーに転職したある方は「欧米メーカーの根底にあるのは,株主に対する利益を最優先する考え方であり,利益を出せるモデルをどう生み出すかを常に考えているが,日本は利益を出せるモデルになっていない」とし,次のように語っていた(以前のコラム)。

 しかし,最近気になることがあります。六本木ヒルズにいた2人の事件のおかげで,利益を上げるために戦略的に思考することを悪だとするような風潮が広がっている。「額に汗して働け」とかね。もちろん額に汗して働くことは大切なことですが,それだけでは少なくとも半導体産業では勝てない。いろいろなところでせっかく出てきた芽がこの2人のおかげで台無しになるのではないかと危惧しています。半導体産業をなんとかするというだけではなくて,私は今,日本は競争力と言う点で極めて怖い状況になっているのではないかと思っています。

 その一方で,日本人が不得意な「利益→技術」を今から志向しても欧米メーカーにかなうわけはない,という見方もある。日本人が得意な「技術→利益」を極めた方が競争力の強化につながるのではないか。その割には,日本の高い技術力は,過去の「遺産」を食い潰しているような状況であり,「理科離れ」の現象も話題を呼んでいる。再度,技術力とものづくり力の強化に取り組まなければならない,という指摘である。

 前述したように,「技術→利益」と「利益→技術」のどちらに重きを置くのかは,製品や製品を取り巻く環境,時代背景によって変わってくる。例えば,半導体では「利益→技術」の考え方の重要性が増し,自動車分野はまだ「技術→利益」の考え方が優位性を持っているということかもしれない。コンピュータ分野では変化の波はもっと早く到来しており,例えば米IBM Corp.は1990年代前半に経験した経営危機をきっかけに「技術→利益」から「利益→技術」の体制に脱皮したと言えるだろう。

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