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過去の教義を捨て、新戦術を編み出す~~硫黄島決戦と栗林中将から学ぶ・その3

2007/02/28 18:15
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 本連載の3回目をようやく書き上げたが、申し訳ないことに相変わらず公開時期が一定しない。第2回分の公開から3週間あまり経過してしまったので、改めて連載主旨を最初にまとめておく。1回目から読んでおられる方は、冒頭部分を飛ばし、本題のところから読み進めて頂きたい。

 太平洋戦争の最激戦区となった硫黄島の決戦とその指揮官であった栗林忠道中将から、困難なプロジェクトへの取り組み方を学び、日本の近代化を考える糸口を見出す。これが本連載の意図である。近代化には当然、科学や技術の導入を含む。この企画を思い立ったきっかけは、早稲田大学文学学術院教授の留守晴夫氏の著書、『常に諸子の先頭に在り 陸軍中将栗林忠道と硫黄島戦』(慧文社)を読了したことにある。

 同書から筆者は、合理精神と敢闘精神の重要性、さらにこれら二つを両立させることの重要性を学び、連載2回目で次のように書いた。「プロジェクトを成功させるために、プロジェクトマネジャとメンバーは、合理的に考えて綿密な計画を練る。そしてプロジェクトが始まったら計画通りであろうがなかろうが、何が何でもやり抜かなければならない。つまり、合理精神と敢闘精神という二面性が求められる」。そんなことは当たり前だと思う読者もあろう。ただ、プロジェクトの現場においては、進捗管理一辺倒になったり、逆に根性ばかり強調されるといったことがしばしば起きてしまう。

 留守教授は『常に諸子の先頭に在り』の中で、栗林忠道中将を「西洋的合理精神と封建的忠誠心をあはせ持つ『異形』の日本人であった」と断ずる。二面性や二元論的思考の意義強調は同書の主題の一つである。留守教授は米文学を専門としており、『常に諸子の先頭に在り』の中で、フォークナーやヘミングウェイ、メルヴィルといった米文学者の著作や発言を次々に引用し、合理主義と理想主義の二面性を持つ米国の姿を描き出す。こうした米国と今後も付き合っていかざるを得ない日本は、日本なりのやり方で二面性と二元論的思考を身に付けねばならない。「ねばならない」と書くのは簡単だが、二面性を身に付けることは難しく、先人に教えを請う必要がある。米国から高く評価されている硫黄島戦と栗林中将から学ぶことは多い。

 栗林中将の合理主義精神を紹介にあたって、前回引用した留守教授の一文を再掲する。「(栗林)中將は帝國陸軍には珍しい合理主義精神の持主だつたから、硫黄島着任後、米軍といふ外部の敵への備へに努力する一方、米軍と戰ふにあたつて障礙となる内部の要因を輕減もしくは除去すべく果斷な措置を採った」。

 硫黄島着任後、栗林中将は海と空からの支援がまったく期待できないことを知り、手持ちの兵力を駆使して持ちこたえ、上陸してくる米軍にできる限りの損害を与える、という方針を立てた。そのために、硫黄島の地下に要塞を築き、戦車や大砲、迫撃砲を隠し、米軍を迎え撃つことにした。『散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道』(梯久美子、新潮社)に引用されている公刊戦史によれば、栗林中将の構想は以下の通りである。「摺鉢山、元山地区に強固な複郭拠点を編成し持久を図ると共に強力な予備隊を保有し、敵来攻の場合、一旦上陸を許し、敵が第一飛行場に進出後出撃してこれを海正面に圧迫撃滅する」。

 「一旦上陸を許」し、「飛行場に進出」させてから攻撃するという戦術は、日本軍の伝統であった「水際撃滅方式」の正反対である。水際撃滅方式とは、その名の通り、水際に強固な防御施設を作り、上陸してくる敵軍をその場で撃退するもの。確かに、上陸前に敵を叩くことが合理的であった時期があった。しかし、米軍は上陸前に空と海から大量の爆弾を落とし、あるいは打ち込んで水際の防御施設を粉砕、その上で一気呵成に上陸する「水陸両用作戦」を用意し、硫黄島に先立つ太平洋諸島の戦いで勝ち続けていた。

 米軍の「水陸両用作戦」をわずか一文で説明してしまったが、当時としては斬新かつ果敢、高度にして複雑な作戦であった。敵軍の眼前に上陸する作戦は、もっとも難しいものとされていたにも関わらず、前線基地の防御や陸軍支援を手掛けていた米国海兵隊は、自らの新しい任務として前線基地の奪取を掲げ、そのために水陸両用作戦を発案した。そして、同作戦を実行するための組織作り、人材育成、技術開発、マニュアル作成を並行して手掛け、満を持して太平洋戦争に臨んだ。技術開発とは、上陸に必要な船艇や水陸両用装軌車の開発を指す。水陸両用作戦を編み出す経緯は、『アメリカ海兵隊 非営利型組織の自己革新』(野中郁次郎著、中公新書)に分かりやすく記載されているので、関心のある方はご覧頂きたい。

 海兵隊が水陸両用作戦を実現するまでには相当な抵抗があった。野中氏は「海兵隊内部にも、第一次世界大戦の成功体験は根づよく、陸軍と同じような大規模陸上戦闘こそが海兵隊の主な使命であると主張する人々もいた。1920年代後半になっても、海兵隊学校のスタッフは基本的に第一次世界大戦の教義(ドクトリン)にとらわれていた」と書いている。

 過去の教義にとらわれていたのは、日本軍も同様であり、しかも米国海兵隊のように過去から脱し、新たな教義を作ることができなかった。そうした中、栗林中将は太平洋の島々における敗戦から、米国海兵隊の作戦を知り、実際に硫黄島の地形を調べた上で「水際撃滅方式」の放棄を決めたが、「一旦上陸を許」すという戦術は海軍や部下の猛反対にあう。『闘魂 硫黄島 小笠原兵団参謀の回想』(堀江芳孝、光人社NF文庫)によると、「兵器資材を拠出するから水際にトーチカを作れ」と主張する海軍と、水際を放棄し地下要塞を作るべしと主張する栗林中将の間で論争になった。論争を決着させる落とし所は栗林中将が用意した。堀江氏は次のような栗林中将の発言を紹介している。「海軍が持ってくるという兵器資材、(中略)大変なものだ。そこでどうだ、半分を海軍の説どおりに使用し、残りをこっちで使うという条件にしたらどうだろう」。こうして海軍の主張通り、トーチカを作る一方、栗林中将の主張通り、地下要塞作りも始まった。

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